経営力がまぶしい日本の市町村50選(1)
日本国政府だけでなく大半の地方自治体が多額の借金地獄に苦しむなか、下條村には基金が44億5000万円もある。基金は家計で言えば貯蓄に当たる。下條村は人口が4000人ちょっとだから、住民1人当たり100万円を超える“貯蓄”があることになる。
BIS規制が呼び水となった「地方自治のバブル」
これは前回紹介したユニークな施策によってコストを徹底的に抑えてきた結果である。もちろん、コストを抑えたからといって住民サービスが低下したわけではない。
若い子育て世代が下條村に住み着いていることが如実に示しているように、住民サービスも極めて手厚い。
ムダなコストは徹底して省き、住民サービスを手厚くする。それだけではなく、万一のときに備えて貯蓄もしっかりとしておく。
「地方自治のトヨタ自動車」。そう呼んでもおかしくないのが下條村の経営なのである。それを可能にしたのが、村長である伊藤喜平さんである。
伊藤村長は1992年に誕生する。このタイミングがいまから考えると絶妙だった。20年前を少し振り返ってみよう。このときから日本はバブルが崩壊して暗くて長いトンネルに入るからだ。
1989年に破裂したバブルの後処理のために日本銀行は急激な金融引き締めに転じ、さらには当時の大蔵省(現財務省)が総量規制を実施したことも引き金となって、我が国の経済はデフレに突入する。
悪いことは重なるもので、国際決済銀行(BIS)による規制が1992年から実施されたことで(これも日本のバブルが原因の1つだったが)、金融機関は自己資本比率を高めるためにゼロリスクとされた国債の保有にひた走り始めた。
一方、デフレ対策のためにゼロ金利政策を採った政府は、国債発行コストが低くなったことから箍(たが)が外れたように赤字国債を乱発するようになった。こうして国債の発行者と引き受ける側の利害が一致、日本は赤字まみれの国へと転落していった。
国の赤字が増えるだけならまだしも、国はこともあろうに地方にも多額の借金をさせるような施策を採った。いわゆる“ひもつき”の地方交付税と呼ばれるものだ。
地方自治体に地方債を発行させ、景気対策の名の下に公共事業を乱発させた。その地方債が償還を迎えたときに地方交付税を上乗せしてあげると約束したのだ。