江蘇省南通市で発生した王子製紙の製紙工場排水設備計画に対する抗議デモは、中国で生産活動をする多くの日系企業に波紋を広げた。

 王子製紙のケースは環境問題という特殊事情があるにせよ、「世界の工場」中国は、今や労働紛争がついて回る“東洋の火薬庫”と化していることが、いよいよ鮮明になったのである。

「労働契約法」施行で労働紛争が増加

 中国では2010年以来、各地で労働紛争が多発している。この年は、南海ホンダのストライキなどがクローズアップされたが、台湾系EMS(電子機器の受託生産)工場の富士康で連続自殺事件が起きたように、決して日系企業だけが標的にされたわけではなかった。

 矛先は、台湾企業、中国国有企業、政府機関にも向かった。そのきっかけは、賃金の未払いや従業員の過労死、企業(工場)売却への反対、社内の腐敗に対する抗議など様々だった。

 中国人力資源部(日本の厚生労働省に相当)によれば、中国各地の仲裁機関が受理する労働争議案件の数は、「2005年の40万件から2010年には128万件に増えた」という。法的手段で自分の権益を訴える労働者が増えているのだ。

 その背景にあるのは、2008年1月1日に「労働契約法」が施行されたことに他ならない。

 現在、中国では格差社会是正のために「和諧社会(調和のとれた社会)」というスローガンが掲げられている。その実現に向けて、労働者にとってはこの「労働契約法」が大きな支えとなる。労働者の権利が手厚く保護されるようになり、労働者を慎重に扱う企業が増えた。

 しかし皮肉にも、これがかえって労使間の摩擦を強める結果となっている。法律があっても、すべての経営者が労働契約法に則った待遇を与えているわけではない。その“言行不一致”が様々な火種を生んでいるのだ。

 法律が認める労働者の権利と、実際の待遇の間には大きな乖離がある。そのことが、労働者の怒りに火をつけている。