「エイミーに加わり、コンテンツを投稿してほしい。そうすれば、投稿した動画1本ごとに300元が受け取れる。最大月に4000元を上限としよう」

 その額は、当時約600ドルに相当したが、ざっと言って、中国の初任給とほぼ同額だった。「かなりの高額です」とアウエハントは言う。「彼らは基本的にその額を月に数本の動画を作るたびに受け取りましたから」

 そしてその金額は人の名声に応じて違っていた。もっと受け取っていた人もいたのだ。

 彼のパートナーはお金を受け取り、共同制作者にもなった。2年間、彼女は会社とともに働き、コンテンツを制作しながら、アプリの開発のしかたについてフィードバックを提供していた。それは今日まで続く慣習となっている。

 私が話をした1人のアメリカ人ティックトックユーザーは2021年3月に届いたアプリへのメッセージで、ベータテスティンググループに参加するよう招待された。そこでは、ティックトックの新しいあり方に関するアイデアを精査するアプリのテストバージョンへのアクセス権を与えられ、アイデアをフィードバックするフェイスブックグループに参加するよう求められた。もちろん、すべては非公開という誓約を交わしたうえである。

 ベータテスターになるために、なおかつ、アプリをいかに改善するかについてリアルタイムで示唆を与え、同時にプラットフォームを成長させるために、トップクリエイターへ支払う額は安くはない。もしエイミーではクリエイターに1人あたり月に600ドルが支払われていたとすると、バイトダンスは初期のクリエイティブチームに少なくとも年間14万4000ドルを費やしていた。

 大人気のインスタグラマーには100万ドルをちらつかせようとも、ティックトックは広告費をブランド構築に必要な経費としてそれを取り戻すことができる。2020年6月現在、インフィード広告、つまり画面をエンドレスにスクロールしながら見られる動画は最長15秒に対して最少でも2万5000ドルかかる。

 1秒あたり1667ドルとはクールだ。もしあなたがもっと絶好の位置が欲しいなら、ユーザーがアプリを開けると動画が上映されるようにするなら、21万~24万ドルほどの経費がかかる。ハッシュタグチャレンジとは、ユーザーが真似をするような奇妙な行動や特徴的なハッシュタグをつけて投稿することだが、これは17万5000ドルからスタートする。

<連載ラインアップ>
第1回 前身アプリ「ミュージカリー」から継承したTikTokの「成長モデル」とは?
第2回 無名だった中国企業バイトダンスは、なぜ動画アプリ「フリッパグラム」を買収したのか?
第3回 群雄割拠のショート動画市場、中国版TikTok「ドウイン」を生んだ差別化戦略とは?
第4回 人の注意力持続時間は8秒…それでも見続けてしまうTikTokの巧妙な仕掛けとは?
第5回 TikTokの「おすすめ動画」はなぜクオリティが高く、ユーザーの関心にマッチするのか?
■第6回 競合SNSのインフルエンサーに100万ドルを提供、ティックトックの強気のスカウト戦略とは?(本稿)


<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから