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 生まれながらにして頂点に立つ者などいない。人がよどみなく一体となり、偉大な「勝者」チームとなるには何が必要なのか? 本連載では、世界的ベストセラー『失敗の科学』『多様性の科学』の著者にして英『タイムズ』紙の第一級コラムニスト、マシュー・サイド氏の著書『勝者の科学 一流になる人とチームの法則』(マシュー・サイド著、永盛鷹司訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)から、内容の一部を抜粋・再編集。オックスフォード大を首席で卒業し、自身も卓球選手として10年近くイングランドNo.1の座に君臨した異才のジャーナリストが、名だたるスポーツチームや名試合を分析し、勝者を生む方程式を解き明かす。

 第3回は、チームワークが個人の力の合計を超える奇跡がいかにして生まれるのか、サッカーの名試合を振り返りながら徹底検証する。

<連載ラインアップ>
第1回 マイケル・ジョーダンの名言に学ぶ、重要な局面で「本能的な恐怖」をコントロールする」秘訣とは
第2回 「諦めるときは死ぬとき」なのか? マンチェスター・ユナイテッドFCを奇跡の勝利に導いた強さの秘密とは
■第3回 レスター・シティは、なぜマンチェスター・シティを破ることができたのか?「社会的手抜き」を最小限に抑えるヒントとは(本稿)


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「社会的手抜き」へのアンチテーゼ「魂のチームワーク」

勝者の科学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 1890年代に、フランスの農業工学者マックス・リンゲルマンは、動力計に取りつけたロープを学生たちに引っ張ってもらった。できるだけ強く引っ張るように指示された学生たちが一人ずつ引っ張ったとき、引っ張る力の平均は85キログラムだった。

 続いてリンゲルマンは、学生たちに7人のグループでロープを引っ張らせた。するとどうなっただろう? 一人ひとりの引っ張る力は25%減少したのだ。

 これは現在においても、重要な実験だと考えられている。その理由は単純だ。チームは例外なく個人の合計よりも大きな力を発揮するという魅力的な発想に対する反証となったからである。

 多くの場面で、チームのほうが力が出るという状況にはならない。人は怠けるのだ。彼らは一生懸命やっているようなふりをするが(ロープの実験でも、みんなうなり声をあげていた)、実際の動きには手を抜いて、ほかの人に負荷を背負ってもらおうとする。これは「社会的手抜き」と呼ばれる現象で、社会のなかの多くの組織、チーム、部署などに見られる。

 スポーツでもこの現象は見られる。カバーを怠るディフェンダー、ボールを追って戻ろうとしないフォワードといった、顕著な例は最近では稀だ(ないわけではないが)。社会的手抜きはもっと微妙な現れ方をする。

 ボールを追って戻るがガッツを爆発させることはないフォワード、タックルをするが95%の力しか出さないディフェンダー、ボールを相手チームに取られたときに危険を見抜くが、実際に点を入れられることはないだろうと自らを納得させ、40メートルの全力疾走をせずにチームメイトを助けに行かないウイングといった具合だ。

 これらは些細なことかもしれない。だが、時間とともに積もり積もっていく。あなたが子どもの面倒を見ている場合を想像してほしい。料理をつくってあげ、おしゃべりをし、公園に連れていく。すべての関わりに力と意味があり、愛が体中を駆け巡る。

 しかし、友人の子どもの面倒を見ているときには、何かが欠落している。周りから見れば、行動は同じだ。それでも、自分でもそれと気づかないうちに、あなたは手を抜いている。時間を使ってはいるが、そこに魂はこもっていない。

 2016年2月6日にレスター・シティFCがマンチェスター・シティFCを破って優勝候補になる様子を見ているとき、私はこのことをずっと考えていた。このクラブは11カ月前には順位表の一番下にあり、7年前にはEFLリーグ1(イングランドの3部リーグ)にいた。

 レスター・シティはスキルと、規律と、戦略的なまとまりを武器に戦ったのだが、彼らのプレーの最もわくわくする側面は、集団的な貢献だった。選手たちは仲間のために走り、お互いを褒め(パスが外れたときでも)、一緒に祝い、お互いを守り、プラトニックに愛し合っているようだった。