それぞれのメンバーの力の合計よりも大きな力を発揮し、これほどわくわくさせてくれるチームを、私はそれまで見たことがなかった。そこでは社会的手抜きが最小限に抑えられているばかりか、存在すらしなかった

 どの選手もディフェンダーを抜けたボールに向かって突進する心づもりができていた。たとえそれがディフェンダーの走路をほんのちょっと逸らすことで、ジェイミー・ヴァーディにわずか数ミリのスペースを余分に与えるためであったとしてもだ。

 危機的状況が実際に起こりそうになくとも、一人ひとりの選手がチームメイトを守るためにエネルギーを費やす覚悟でいた。けがのリスクがあっても、選手の全員が危険なところに飛び出していこうという気を持っていた。言葉ではなく、行動で示されるチームワークだ。それは魂のチームワークだった。

 プロゾーンがこの魔法をデータセットでとらえられたらいいのだがと思う。というのも、まさにこれこそが、集団で偉大さをつかむ要因となる場合が多いからだ。これは社会的手抜きへのアンチテーゼだ。他者の努力にただ乗りするのではなく、そこにプラスするのである。

 レスター・シティのどの試合でも常にこれは見られた。開幕初戦のサンダーランドAFC戦から、チェルシーFCに2対1で勝った2015年12月の試合、そしてリヴァプールFCに2対0で勝った2016年2月2日のすばらしい試合に至るまでだ。

 このときにはファンでなくとも、この手に汗握る成り行きは運ではなく、何かもっと深遠な要素がからんでいるのだろうと、初めて認めざるを得なくなっただろう。

 2016年2月6日のマンチェスター・シティ戦は、プレミアリーグの歴史のなかでも最大級に刺激的な試合に数えられるに違いない。そこでレスター・シティはさらなる高みに達した。

 2億2000万ポンド(約420億円)以上もかけて編成されたホームチームが、2年前にはEFLチャンピオンシップ(イングランドの2部リーグ)でプレーしていた選手が大半で、しかもそのうち二人は自由移籍で加入したというチームに圧倒され、劣勢に立たされたのだ。

 何よりもレスター・シティはチームとして際立っていた。リヤド・マフレズは魔術師で、ヴァーディは並外れて勤勉で狡猾なストライカーだが(どちらかは年間最優秀選手に選ばれるに違いない)、レスター・シティの真の魔法は、集団から生まれているのだ。

<連載ラインアップ>
第1回 マイケル・ジョーダンの名言に学ぶ、重要な局面で「本能的な恐怖」をコントロールする」秘訣とは
第2回 「諦めるときは死ぬとき」なのか? マンチェスター・ユナイテッドFCを奇跡の勝利に導いた強さの秘密とは
■第3回 レスター・シティは、なぜマンチェスター・シティを破ることができたのか?「社会的手抜き」を最小限に抑えるヒントとは(本稿)


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