全世界で「最も売れた家庭用ゲーム機」である「プレイステーション」(以下「PS」)。他社に先駆けた進化を続け、業界のビジネスモデルまでも変化させた。そのPS事業において7年間にわたりCTOを務めたのが茶谷公之氏だ。前編に引き続き、2023年11月に著書『創造する人の時代』(日経BP)を出版した同氏に、PSがゲーム業界のみならず幅広い分野で世界の評価を集めた理由や、新たな価値を生み続ける組織の秘訣(ひけつ)について聞いた。(後編/全2回)
■【前編】「人に崩される前に自分で崩す」…プレステを“世界で最も売れた家庭用ゲーム機”に育てたソニーの流儀
■【後編】スタンフォード大の難病解析プロジェクトで活躍、ソニー「プレステ」がギネス記録の偉業に貢献できた理由(今回)
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PSのもう一つの魅力「ノンゲーム」
――前編では、AI時代に価値が高まる「つくれる人」の条件や、歴代のPSが仕掛けた「ゲームチェンジ」について聞きました。PSは「最も売れた家庭用ゲーム機」としても知られていますが、ここまで世界に広まった背景にはどのような要因があるのでしょうか。
茶谷公之氏(以下敬称略) 要因はさまざまですが「製品を世界に広める」という意味では当時、ゲーム以外の機能を意味する「ノンゲーム」の分野を強く意識していました。ノンゲームアプリで一番人気があったのが「torne(トルネ)」というハードディスクレコーダーの代わりになるアプリです。
家電メーカーが作るハードディスクレコーダーには、PSほど速いプロセッサーは搭載されていないため、ユーザーによっては動作が遅いと感じることがあります。一方で、PSの能力を最大限に使うと高速で滑らかなインターフェースが実現できます。ゲームで使い慣れたコントローラーを操作して、番組表を見たり、録画予約をしたりできることで、一般的な家電製品では体験できない操作感を味わえると好評でした。
――ゲーム機でテレビを快適に見ることができるのは、高機能なPSだからこそ提供できる体験ですね。
茶谷 他にも、スタンフォード大学と一緒に進めた「Folding@home」(FAH)というプロジェクトがあります。これは世界中のPCにデータを配り解析してもらい、計算結果を戻すことで難病の治療法を見つけようとする、「分散コンピューティング」の技術を活用したプロジェクトです。PS事業は社会貢献の一環として参画しました。