富士通 執行役員副社長CRO、コンサルティング担当の大西俊介氏(撮影:冨田望)

 富士通が、顧客価値の最大化を軸に全社変革を加速している。2022年の営業強化施策「TIGERプロジェクト」を契機に、顧客単位で責任を持つ「AGM(アカウント・ジェネラル・マネージャー)」と上位職「GAD(グローバル・アカウント・ディレクター)」を新設。部門間の壁を壊し、グローバルでの統合営業体制を再構築した。組織変革の要を担い、2025年6月に『CROの流儀』(日経BP)を出版した同社執行役員副社長CRO(最高収益責任者=Chief Revenue Officer)の大西俊介氏に、目指すべき組織の在り方、変革を担うリーダー像について聞いた。

「サイロを壊す」象徴の人材モデル「AGM」

──顧客への「提供価値の最大化」に向けた全社的な変革の一環で、大西さんはCROとして新たな人材モデルの構築も行っています。具体的には、どのような背景があったのですか。

大西俊介氏(以下、敬称略) 人材モデルの構築は、実はTIGERプロジェクト(※1)の少し前の段階から進めてきました。

 話す内容によって、ある時は営業担当、ある時はSE(システムエンジニア)と相談先が変わる。お客さまにとって一番困ることですよね。「では、持ち帰って検討します」という場面も多発します。お客さまは「富士通の責任者は誰なのか」を知りたくなるでしょう。

 そこで、アカウント(顧客)の全体責任を担う「AGM(アカウント・ジェネラル・マネージャー)(※2)」と、さらにその上位職である「GAD(グローバル・アカウント・ディレクター)(※3)」というポジションを新設しました。

※1 富士通が「中期経営計画に掲げる売上目標の未達分の約1割を積み上げる」ことを目標に、2022年4月から1年間限定で実施した緊急営業プロジェクト。結果としてプロジェクト目標数値の約2倍、成約率65%超の成果を上げた。
※2担当の顧客企業に対して1人の担当者が全責任を持つ仕組み。「富士通の代表」として顧客に相対する、顧客フロントの新たなロールモデル。
※3 AGMの上位レイヤーとして、グローバルでAGMを統括する。営業、デリバリー(実行)、各国・地域の拠点の下部組織も含めて担当顧客に関する全てに責任を負う。

 2つの職種の役割は、これまでの窓口役や取り次ぎ役としての営業担当とは大きく異なります。「分かりました、担当を連れてきます」ではなく、「私に任せてください」と、自らが主体的に、お客さまに説明責任を果たす。そうした当事者意識を持ったリーダーがAGMでありGADです。これらの役職は改革の一つの象徴でもあります。