出所:共同通信イメージズ

「所有から利用へ」と消費者の意識が変化する中、「これからのマーケティングは市場取引だけでは完結しない」と語るのは、2025年3月に編著書『価値共創マーケティングの深化』(同文舘出版)を出版した岐阜聖徳学園大学 経済情報学部教授の村松潤一氏だ。マーケティングの役割や手法はどのように変化していくのか。企業が顧客と相互作用を起こしながら価値を生む「価値共創マーケティング」の概念や、オムロンヘルスケアの事例から考える価値共創の在り方について、同氏に話を聞いた。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2025年6月24日)※内容は掲載当時のもの

マーケティングは「売り切り型」から「価値共創型」へ

――編著書『価値共創マーケティングの深化』のテーマである「価値共創マーケティング」とは、どのような概念なのでしょうか。

村松潤一氏(以下敬称略) 現代マーケティングの第一人者として知られるフィリップ・コトラー氏が提唱するマーケティングの概念は、モノベース・市場ベース・交換価値ベースで考える「売り切り型ビジネス」が念頭に置かれています。

 一方で、2004年にアメリカのマーケティング研究者であるロバート・F・ラッシュとスティーブン・L・バーゴが提唱した「サービス・ドミナント・ロジック(以下、S-Dロジック)」では、交換価値ではなく、モノやサービスが利用されることで生まれる「文脈価値(value-in-context)」が重要といわれています。

 消費者からすれば「モノを買うこと」は目的ではなく手段です。モノやサービスを利用することで「価値を得ること」こそが目的であるはずです。「消費者に買ってもらっておしまい」ではなく、利用されるところまで入り込み、そこで「新たに生まれる価値」を高めるためのマーケティングこそが必要だと考えています。

 このように消費者の手段ではなく目的に着目し、生活世界で新たに展開するマーケティングが「価値共創マーケティング」です。

 価値共創マーケティングでは、主体となる顧客が「常に新しい価値を創造する存在である」と捉え、価値創造プロセスで企業が顧客と相互作用を起こしながら、一緒になって利用から生まれる価値(文脈価値)を創出し、その価値を高めることに主眼が置かれています。