物流業界や建設業界で今、「2024年問題」が大きな課題になっている。残業規制が厳しくなり、人手不足による業務の混乱も予想される。早急な対応が求められるが、経営リソースに限りがある中小企業ではそれも容易ではない。どのような取り組みが可能なのか、中小企業の人事労務管理に詳しい、freeeの和田矩明氏に聞いた。
「2024年問題」が中小企業の死活問題になり得る
残業時間の「2024年問題」が中小企業にとって大きな懸念事項になりつつある。用語自体の注目も高まっているようだが、そもそも残業時間の「2024年問題」とは何なのか。中小企業の労務管理に詳しい、freee HR事業本部プロダクトマーケティング部長PMMの和田矩明氏は次のように説明する。
「2019年に働き方改革関連法が施行されました。残業時間を原則として月45時間、年360時間までとするものですが、これまではどちらかと言えば大企業が対象でした。働き方改革関連法の改正により2023年4月1日からは月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上となる対象が、従来の大企業に加え中小企業まで拡大されます。また、長時間労働が常態化している医師、建設、運輸業は2024年3月末まで、この規制の適応が猶予されていましたが、それが終了します。特に後者は、関連する業界の中小企業にとっては深刻な課題であり、『2024年問題』と呼ばれている理由です」
同法に違反すると罰則もあるという。「違反すると、使用者に6カ月以内の懲役か、30万円以下の罰金が科される可能性があります」と和田氏は紹介する。30万円というとさほど大きな額ではないと感じる人がいるかもしれないが、注意すべきは、罰金は違反者1人に対するものであることだ。つまり、社内に違反者が100人いれば、3000万円の罰金になることもあり得るのだ。中小企業がこれだけの収益を上げるのは容易ではないだろう。
「もちろん、ある日突然、100人の違反者がいるから3000万円の罰金を払えと当局が言ってくるわけではありません。まずは、労働基準監督署による立ち入り調査や是正勧告が行われます。しかしそれだけでも、会社の評判を落とすことになります。特に最近は、インターネットを通じてさまざまな情報が瞬時に伝達されてしまいます。ひとたび『あの会社はブラックだ』という風評が広がってしまうと、もう消すことはできません」。地域に密着する中小企業において、そのような評判が立つことは人材の採用活動も難しくなるだろう。
特筆すべきは、同法に違反することで、自社の事業そのものにも影響が生じることだ。
「例えば建設業では2020年に改正建設業法が施行され、社会保険に加入していない企業は建設業の許可や更新ができなくなりました。大手ゼネコンは下請け協力会社の働き方改革に非常に気を遣っています。長時間労働が是正できない企業は、今後仕事が受注できなくなくなることもあり得ます」(和田氏)。
調査から見える、中小企業が抱える課題
「2024年問題」は対応が遅れると自社の経営リスクにもつながる喫緊の課題と言えそうだ。実際に企業での取り組みの進捗はどのようになっているのだろうか。
興味深いデータがある。freeeが実施した「働き方改革関連法改正と『2024年問題』に関する調査」だ。同調査は全国の労務担当者を対象に2023年02月13日~2023年02月15日、インターネットリサーチによって行われた。有効回答数は976名で、このうち338名が、2024年問題に関する医療・建設・運輸業界の労務担当者である。
和田氏はその調査結果について、以下のように紹介する。「一口で言えば、働き方改革関連法改正や『2024年問題』に関して一定の認知もあり、何かしなければと考えてはいるものの、なかなか着手できていないのが現状のようです」
具体的には、働き方改革関連法案の改正による「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率引き上げについて知っているか」と尋ねたところ「知っている」と回答した人が74.3%となった一方で、「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率引き上げの対応状況」についての対応状況については、「未対応・不明」の回答が61.2%となっており、これから対応が必要である企業が多いことが分かった。
また、「2024年問題」の対象となる医療、建設、運輸業の労務担当者を対象に、「2024年問題」について知っているか尋ねたところ、「知っている」が83.7%となり認知度は高いことが分かった。しかし、「2024年問題」の対応状況について聞くと「未対応」が45%となり、まだ対応していない企業が4割以上あることが分かった。
「未対応と回答した人のうち『2024年問題』にまだ対応していない理由について尋ねたところ、『対応する必要を感じていないから』と答えた人が36.8%、『対応策を考える時間が取れていないから』と答えた人が34.1%でした。運送業と言っても、中にはルート配送が中心で、ほとんど残業がないという企業もあるかもしれません。それならばまだいいのですが、日々の業務に追われて問題を先送りしているだけになっているのであれば注意が必要です」
中には「まだ対応しなくても間に合うから」と答えた人も21.6%いたという。しかし、2024年4月までもう1年を切っている。間際になって慌てることのないよう、早めに対策を立て準備しておくことが必要だろう。
スマホのアプリなどを活用して労務管理負担を軽減
「2024年問題」に対して、対応していない理由について「対応策を考える時間が取れていないから」と回答した人が34.1%もいることについては注目すべきだと和田氏は指摘する。
「『働き方改革対応のために労務担当者の業務負荷が増えたと感じますか?』と尋ねたところ、全業種では43.3%が増えたと答えたのに対して、医療では60%、建設では50.3%、運輸では52.6%と、『2024年問題』該当業種のほうが大きな負荷増加になっていることが分かりました。当社では実際に、中小企業の労務担当者の方にインタビューをしたことがあります。そこで分かったのは、中小企業の労務担当者の多くが複数の業務の兼任で、労務業務業務を回すことで手一杯になりやすく、法改正対応や業務効率化に取り組む時間的余裕がないことでした」
労務業務に感じる負荷は、勤怠管理、年末調整、給与計算、入社退社の手続き、社会保険管理などだ。
「労務担当者を置いている中小企業もあれば、中には社長や社長の家族があれもこれも全部やっているところもあります。これらの業務を効率化するだけでも、負荷をかなり減らすことができます」と和田氏は話す。
とは言え、例えば運送業では、納品先の物流拠点での荷さばきスペースにトラックを付けるまでに長時間の待機が発生することが大きな問題となっている。発荷主だけでなく、納品先の顧客の意識改革も必要であり、なかなか中小の運送業者が単独で解決できるものではない。
「もちろん、そのような課題については、業界全体で取り組むべきだと考えます。一方で、中小企業でもやれることがかなりあります。例えば、スマートフォンを使った勤怠管理もその一つです」と和田氏は語る。
タイムカードを打刻するためだけに出勤時、退勤時に事務所に立ち寄らなければならない企業もある。それでいて、毎月の締め作業を行わないと実績が確認できないので大変だ。ある社員の残業が多すぎると分かるのも、締め作業を行った後である。
「スマホのアプリによる出退勤管理なら、ドライバーや建設作業員などの社員が現場に直行直帰しても、ボタン一つで打刻ができます。休憩時間などの記録もボタン一つです。さらに管理者は勤務状況をほぼリアルタイムで把握できるほか、残業の多い社員には自動的にアラートで知らせたり、上司に報告したりすることができます。また、毎月の締め作業も週次などで行えるので、労務担当者の負担を大幅に軽減できます」
新料金体系で『freee人事労務』を提供
和田氏によれば、最近になって、人事労務管理の業務効率化を実現するクラウドサービス(インターネットを通じてソフトウェアを利用できるサービス)も登場しているという。中小企業でも関心を持つ企業が増えているようだ。
「調査では『働き方改革対応を見据えて人事労務クラウドソフトを導入したことはありますか?』と尋ねています。それに対して、導入を検討中(29%)、いずれは検討する(16%)と『検討中・予定』が45%となりました。一方で、『人事労務クラウドソフトの導入検討にあたって予算の都合で見送ったことはありますか?』と聞いたところ、29.1%の労務担当者が、『見送ったことがある』と答えています」と和田氏。
中小企業のクラウド導入にあたっては、予算が大きな壁になっていることが分かる。このため、いまだに未対応企業が多く残っている状況だが、朗報もある。「3月2日から、給与計算、労務管理、勤怠管理などをセットにした『freee人事労務』の料金プランをリニューアルし、中小企業の皆様にもご利用いただきやすくしました」と和田氏は語る。
大きな特色は、従来の基本料金をゼロ円とし、従業員ID(一人あたり)の料金体系になったことだ。利用できる機能に応じて「ミニマム(400円/月)」、「スターター(600円/月)」、「スタンダード(800円/月)」、「アドバンス(1100円/月)」の4プランを提供する。
「中小企業の多くのお客様は基本料金を撤廃したことで、料金が安くなります」(和田氏)というからうれしい。
freeeではさらに、「働き方改革 社労士相談窓口(※1)」や「医療/建設/運輸業向け就業規則テンプレート」、「就業規則の変更/新規作成代行パッケージ(※2)」なども無料で提供するという。
「『freee人事労務』を活用いただくことで、労基法などに関する専門知識がなくても、法令を遵守した適切な労務管理が可能になります。ぜひ活用し、経営者や労務担当者の負担を軽減して業務に余裕を生み出し、収益に直結するコア業務に注力していただきたいと願っています。クラウド導入サポートのための無料のオンラインセミナーのほか、メールやチャット、電話でのサポートなどにも力を入れています。『2024年問題に対応しなければならないが、何から始めればいいのか分からない』という企業は、ぜひ相談いただきたいですね」と和田氏は結んだ。
※1:2023年6月末まで
※2:freee人事労務・freee勤怠管理Plus同時契約のユーザー様限定 2023年6月末まで
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