千葉:私は2003年の世界陸上のマラソンで銅メダルを獲得しました。世界で3位になれたので、翌年のアテネオリンピックでは金メダルを取りたいと意気込んでいたんです。でも、日本には素晴らしいランナーがたくさんいて、私は日本代表になれませんでした。情けなくて悲しくて涙も出なくて、しばらく部屋に引きこもっていたのですが、ある日、やっと外に出る気持ちになれて、そのときにいつものコースをジョギングしたんですね。
 
 そうしたら、自分の人生の主役は自分なんだから、前を向いて進んでいこうという気持ちがわき上がってきました。

 おそらく、身体を動かしたからだと思います。身体が前に進んでいれば、気持ちは後ろ向きにはなりません。心もリフレッシュするし、リズム運動をすれば自律神経が整います。スポーツには、挫折から立ち直らせる力があると実感して、それを多くの人に伝えたいなと思って、ランニングクラブを始めました。誰でも入れますので、ぜひ、みなさん、どうぞ。

宇城:車いすでも入れますか?

千葉:もちろん!

鶴岡:スポーツには、人と人をつなげる力もありますね。一緒に競技を楽しむこともできますし、選手がいいパフォーマンスを発揮すれば、応援している人も一緒に喜べます。

千葉:そうです。マラソンは一人で走っているように見えて、でも、みんなの力があってレースに出られているので、選手の側も喜びをみんなで分かち合いたいと思っています。これはスポーツだけでなく、仕事も人生も同じですよね。

宇城:僕は、たまたま始めたパワーリフティングで、大学時代の事故から立ち直ることができました。健常者と一緒に同じ施設で練習をして、仲間になって、助けてももらって、健常者も出場する大会で優勝して、共に生きる世界に出会えたから、挫折を乗り越えられたのだと思っています。

千葉:先日、射撃の田口亜希選手とお仕事をしたときに、帰りの新幹線に間に合うかどうか、とても気にされていました。車いすだと、直前の予約の変更ができないんだそうです。まだそうだったのか、と驚きました。私の母もパーキンソン病で車いす生活を送っていますが、これからもっと高齢化が進んでいくのですから、宇城さんが言われたような共生の輪をもっと広げるために、最新の技術を使うなどしてほしいと思います。

宇城:共生社会を作るためには、みんなが「障がい者が日頃、どんな気持ちでいるか」を知ることだと思います。僕は脊髄を損傷しもう治らないと言われ、どーんと落ち込みました。自分一人ではできないことが多くて、それで自信が持てなくなって、自分を嫌になったからです。

 共生社会を作るには、みんなで障がい者にできないことを減らす、バリアを取り除く必要があります。車いすでは階段を上れないからエレベーターをつけよう、目の不自由な人は信号が見えないから音楽をつけよう。そういったことをみんなが考えるようになれば共生社会が作れると思いますし、作らなくてはならないと思います。

千葉:みんなに、想像力が必要ですね。

鶴岡:本当にそうですね。では最後に、お二人に来年のことを伺います。千葉さんは、東京パラリンピックでは何を楽しみにしていますか。やはりマラソンも気になるのではないでしょうか。

千葉:子供と一緒に、同い年のお友達である道下美里さん(ブラインドマラソン日本代表に内定)を応援しに行くことにしています。道下さんはリオでは銀メダルでしたが、今はそのときよりも状態が良いそうなので、新国立競技場に一番で帰ってきてくれたらと期待しています。

鶴岡:ちょうどここ日本橋は、マラソンのコース上に位置していますね。では、宇城さんは・・・。

千葉:あれ?宇城さんの今日のネクタイ、金メダルみたいな色ですね。ちょっとフライングじゃないですか?(笑)

宇城:気付いてくれて、ありがとうございます(笑)。まずは出場を決めなくてはならないのですが、そこへ向けては毎日、精一杯やっていきます。そして今日、集まってくださった皆さん、東京パラリンピックを見に来てください。パラリンピックは、いろんな障がいを持った人が、日頃の練習の成果を 発揮しようとする場所です。きっと、みなさんがこれまで感じたことのない感情が、自分の中にプラスされると思います。ぜひ、東京パラリンピックを応援してください。

鶴岡:私もその応援団に加わりたいと思います。宇城さん、千葉さん、今日はありがとうございました。
 

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プロフィール

■宇城元 うじろ・はじめ
パワーリフティング男子80㎏級選手/順天堂大学職員。
1973年生まれ、兵庫県出身。大学4年生の時にバイク事故で車いす生活となり、25歳でパラパワーリフティングを開始、5年後のアテネパラリンピックでは初出場で8位入賞(67.5㎏級)、2012年ロンドンパラリンピックでは7位入賞(75kg級)。2020年東京パラリンピック出場を目指して最終調整中。

■千葉真子 ちば・まさこ
マラソンランナー/スポーツコメンテーター/千葉真子 BEST SMILEランニングクラブキャプテン。
1976年生まれ、京都府出身。1996年アトランタオリンピックの10000メートルで5位入賞、1997年アテネ世界陸上10000メートル3位、2003年パリ世界陸上マラソン3位など、トラック競技とマラソンで活躍。第一線を退いた後は、ゲストランナーとして全国のマラソン大会に出場しながら、市民ランナーの指導や普及活動を行っている。

■鶴岡弘之 つるおか・ひろゆき
JBpress編集長。
東京大学文学部卒業。電機メーカー、コンピューターメーカーを経て日経BP社記者に。コンピューター雑誌、美術・デザイン雑誌、ビジネス系ウェブサイトなどの編集や運営、立ち上げに携わる。2008年4月、日本ビジネスプレスの設立に参画しJBpress副編集長に就任。2015年4月より現職。

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