チケット販売で有名なぴあが運営するウェブメディア「ウレぴあ総研」は、幅広いジャンルを網羅しながら、多様化するユーザーの嗜好にささるコンテンツを配信している。特に最近は企業が発信するプレスリリースの閲読傾向を分析して、新しい要素を加えてオリジナル記事へと再編集するデータドリブン型コンテンツが人気を集めている。プレスリリース配信大手の「PR TIMES」と「ウレぴあ総研」が手掛ける「ユーザーに読まれるプレスリリース」の秘密に迫る。

プレスリリースはデータの宝庫
編集会議でも話題に

「ぴあ自体はチケット販売を中心としたエンタメ系サービスを提供する企業ですが、いまではグルメフェスなどイベント主催も行っています。そんな中、2011年に情報誌「ぴあ」に代わって誕生したのが「ウレぴあ総研」です。ユーザーに響く情報を届けたいという思いから、ターゲットのライフスタイルや趣味・嗜好に合わせて600以上のカテゴリーを開発してきました」と話すのは、ぴあデジタルコミュニケーションズ デジタルマーケティング事業DIV デジタルマーケティンググループ管掌 市川雅仁氏だ。

 その際重要になるのは、年間約9,000万ユーザーが利用する、「チケットぴあ」の購買データと、「ウレぴあ総研」などでの行動データが全て掛け合わされた、「PIA DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」だ。

ぴあデジタルコミュニケーションズ株式会社
デジタルマーケティング事業DIV
デジタルマーケティンググループ管掌
市川雅仁氏 

「例えば、『ウレぴあ総研』でエンタメカテゴリーを閲覧していたユーザーが演劇のチケットをよく買っている事が分かったとします。それを編集者と共有し、エンタメカテゴリーで演劇のコンテンツを展開していく。人気が出るようなら演劇自体をひとつのカテゴリーにするという流れです。チケット購買は一人あたり年に数回しか発生しませんが、定常的に来訪するメディアのデータと掛け合わせることで、個人個人の複合的な嗜好性データが読み取れるようになります。」(市川氏)

 ぴあではこうしたデータドリブンマーケティングが浸透している。編集会議でも必ずデータをもとに話し合いが行われる。そしてその際に大きな示唆を与えてくれるのが「PR TIMES」が提供するプレスリリースだというのだ。

プレスリリースが一番人気の記事に!?
オリジナル要素を加えて再記事化

 07年4月にサービス開始した「PR TIMES」は、企業のプレスリリース配信サービスを主力事業とし、月に約1万本のプレスリリースを配信、利用企業数は2万5000社を超え、国内上場企業の利用率は33.5%に上る。一方、プレスリリース配信先となるメディアは1万2000媒体以上。その中でも「ウレぴあ総研」をはじめとする、全国の新聞、ビジネス系サイトなど有力メディアとは、配信したリリースが自動的にコンテンツ化されて、タイムリーにメディア上に掲載される特別なパートナーシップを組んでいる。

株式会社PR TIMES 取締役
経営企画本部長
三島映拓氏

「従来型のプレスリリースは膨大な量を編集部に送りつけて逆に嫌われてしまうということもあったかもしれませんが、各メディアのカテゴリーにマッチしたプレスリリースを選別して配信することで、メディアの方にも喜んで頂けるようになりました。ウレぴあ総研さん向けにもカテゴリー別に、グルメ、ママ向けなど、情報を分類してお届けしています」と話すのは、PR TIMES取締役で、経営企画本部長の三島映拓氏だ。

 両社の提携が始まったのは17年6月。「PR TIMES」活用のきっかけについて、「最初の目的は編集者のネタ探しをしやすくするためでした」と市川氏は振り返る。

「ところが、かなり多くのユーザーがプレスリリースを読んでいることに気が付いたんです。データからもはっきり見て取れました。カテゴリーによっては、プレスリリースのジャンルが最も閲覧数が多い時もありました。理由を探る中で、プレスリリースはタイトルに商品やサービス名が入っているなど、興味のあるユーザーがクリックしやすく、記事のレコメンドにもヒットしやすいことが分かったんです。そこで、反応のよかったプレスリリースを、新たな要素を加えてオリジナル記事に再編集したところ、さらにアクセスにつながることが分かりました」(市川氏)

プレスリリース起点に
記事の展開方法を検討

 最初「ネタ探し」だったものが進化し、「コンテンツ作成支援」へとステージを上げる。この取り組みを促進させたのが、PR TIMES独自の仕組みだ。

「『PR TIMES』では単純にプレスリリースをメディアに配信するだけでなく、プレスリリースを活用してメディアが自分たちの記事を生産しやすいように、記事投稿システムとの連携まで行っています。例えば反響の良かったリリースを今後の企画に応用する場合、既に投稿システム上に画像やテキストデータが保存されているため、編集者は投稿システム上で簡単に画像の再利用およびテキストの再編集ができます。さらにリリースには載せきれなかった画像なども活用可能です。」(三島氏)

 リソースが限られる中で、タイムリーかつ積極的にコンテンツを発信する際、元々の画像・文章データが記事投稿システム上にあると効率を大いに高めることができる。そのためプレスリリースがメディアの記事としてユーザーに届く機会の最大化が図れるのだ。

「例えば、とある高級パン店のプレスリリースが実際に非常に人気を集めていました。『ウレぴあ総研』では定常的にパン特集を組んでいるので、元のプレスリリースに新しい要素を付け加えて、オリジナル記事として特集内で展開するなど日常的に行っています。またコンテンツの後ろに、『どの商品が気になるか』『毎日の食パンにいくらまでお金を出せるか』といった選択項目や自由回答欄を付け加えたりもします。結果を見て、結構お金をかけていると分かれば、新たな記事のネタになります。このようにプレスリリースを出発点に記事の展開方法が決まっていくケースは今後増えていくと思います」(市川氏)

 ぴあでは、こうしたプレスリリースの徹底的な活用とDMPで得られたデータ分析によって、ユーザーにささる確度の高い記事を、編集部全体で生み出すことができるようになったと市川氏は実感している。

「プレスリリースがメディアの記事の中でも上位に入るほど人気が得られるようになったのは、企業側が最近は読者に直接読まれることを意識して『読んで楽しいプレスリリース』を作るようになったことが大きいと思います。そしてそれが好循環をうみ、プレスリリースを転載したいという声や、「ウレぴあ総研」さんのようにプレスリリースをベースにオリジナル記事を作成して世に届けてくれるメディアが着実に増えてきています」(三島氏)

 プレスリリースを起点にユーザーとのコミュニケーションを深めようとするメディアの広がりを感じて、三島氏はこうメッセージを発信し、企業の、今後より積極的な情報発信を促す。

「当社は情報を発信する人を後押しし、リリースを楽しみにする生活者も増やしていきたいと考えます。20年度には今の約2倍となる利用企業5万社を目標に、『行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ』というミッションの実現を目指します。あらゆる行動を起こしている人が頑張りの成果を発表でき、それが次の行動を呼ぶといった、ポジティブな循環を、情報を通じてつくっていきたい」

写真はPR TIMESのオフィス

 ※株式会社PR TIMES は、2018年8月29日より、東京証券取引所市場第一部へ市場変更