すべての学科が集うワンキャンパス

 学習院は長い歴史を持つ私立学校だ。同校の起源は、1847年、幕末の京都に設けられた公家の教育機関まで遡る。その後、1877年に東京・神田錦町に設立された華族学校が「学習院」の名前を継承した。

現在の学習院大学は、法学、経済学、文学、理学、国際社会科学の5学部17学科、法学、政治学、経済学、経営学、人文科学、自然科学の6研究科、専門職大学院(法科大学院)を擁す総合大学で、その全てが、山手線目白駅の目の前にある目白キャンパスに集う。少人数制教育を大切にしており、樹木の緑に囲まれた教育環境も充実している。
 

課題を解決するには文理連携が不可欠

 現在、大学の中には人文科学系や社会科学系の学部を見直し、実践的な職業教育へと舵を切り始めているところもある。しかし、総合大学には、仕事に就くための知識とスキルを伸ばすだけでなく、将来直面する未知の課題を解決していくための能力や考え方を育むことも求められている。

生物の再生研究の第一人者である理学部生命科学科・教授の阿形清和氏は、「私の専門分野でもある再生医療は日進月歩。最近では、試験管の中でiPS細胞からミニ臓器を作る研究や、ブタの臓器を移植する研究、ブタの体にヒトの移植用の臓器を作らせる研究などがフロント研究として行われている。これらの取り組みによって、臓器移植の提供者を持たなくてもよい時代が来ようとしている。しかし、期待が大きい一方で、倫理面や哲学的な観点からの議論も並行して行われる必要があると思う」と話す。

学習院大学 理学部生命科学科 教授
阿形 清和 氏
理学博士(京都大学) 専門分野は再生生物学

フロント研究への認識は、患者を目の当たりにしている医療関係者と一般の方々との間ではギャップが存在しており、ブタの臓器を人間に移植するといった考えは、必然的に哲学的、倫理的な命題を提起する。例えば、「人と他の生物との違いは何か」、「なぜ寿命があるのか」、「人間の尊厳とはなにか」、「宗教的受容」などである。続いてそれらの技術が臨床の現場で使われるようになる段階では、治療費が高額であることの「経済的な問題」やそれに必要な薬価にかかる保険料といった「社会的な問題」が解決されなくてはいけない。つまり、現実にこれらフロント科学の技術が適用されるには、「技術的には可能」というだけでは、現代の複雑な社会では成り立たない。サイエンスは、哲学、法学、経済学などさまざまな領域と連携して議論しなくてはいけない。

こうしたことは、再生医療のみならず、古くから核エネルギー問題や公害問題を始め、多くの分野で発生している。すなわち、先行する科学技術に対し、社会が追いついていないのである。解決をはかるためには、文理連携が可能な大学が、若い世代を含めて議論する場を提供し、近未来の問題に対処できる人材を育成することが大切ではないだろうか。そのような観点に立って、学習院大学は理系・人文系・社会系を融合させる取り組みをいち早く始めている。
 

文理連携による統合的な議論を進める

 ワンキャンパスに理系・人文系・社会系すべての学部をもつ総合大学である学習院大学が、その特色を生かし2016年に採択された私立大学研究ブランディング事業「超高齢社会への新たなチャレンジ―文理連携型〈生命社会学〉によるアプローチ―」がそれだ。

学習院大学は、この事業の中で、文理連携による統合的議論を深める新たな学際領域「生命社会学」を創成した。

「例えば医療の急速な進展により、寿命は延びた。一方で、判断能力や運動能力の低下した高齢者が増えている。これは、医療や福祉の現場を中心に大きな社会問題になっている。社会問題というものは、個々の問題が生じてから対応するケースが多いため、どうしても対策が後手に回る。その間にも多くの人々が難しい状況におかれてしまうのも事実」と阿形氏は指摘する。

科学技術の進展により生じる問題は、研究の先鋭化によってもたらされる社会の変化を予測しきれない、また、社会も科学界で進行している新たなサイエンスの展開を把握しきれないという点が背景として挙げられる。

「生命社会学」は、生命科学の急速な進展に伴って生じうる社会的諸問題について文理両面から議論するプラットフォームを提供し、超高齢社会に対応可能な社会基盤の整備に向けた提言を目指している。

学習院大学でしか受けられない授業「生命社会学」

 学習院大学では2018年4月から、基礎教養科目「生命社会学」を開設する。これは、在籍する学部を問わず、すべての学生が履修することのできる講義だ。

開設の意図について、「大学はもちろんサイエンスの場だが、特に若いうちから自分の専門領域に「タコツボ」のように閉じこもっていては、現実社会と乖離するばかり。現実の問題にはサイエンスだけでは解決できないことも多く、また、人間としての感情が入り混じることで複雑になってしまうことが多々ある。サイエンスという共通の土俵の上で様々な問題を議論する場を提供することが、大学には求められているのではないか。そのためには、フロントサイエンスを教えるとともに、幅広い分野を超えて議論をするといったトレーニング、あるいは人間の深みや幅を広げるための教養を育むことが総合大学としては大切だと思う」と阿形氏は話す。

また、「講義では、最先端の研究成果と、それらがもたらす医療・介護分野の革新を紹介するとともに、超高齢社会がはらむさまざまな課題を経済、社会、法倫理などの面から多角的に考察していく」(阿形氏)。

この授業で特にユニークなのは、「1回の授業の中で」文系と理系の講師が同じテーマを、それぞれの視点から講義することである。その後両方の意見を聞いたうえで学生たちは文理入り混じったグループを作り、各回のテーマについてお互いに議論し、さらに総合討論をするという3部で構成されている。

「この講義を通じて、自分と異なる考え方がたくさんあることを知るだけでも、学生たちの考え方は変わっていくはず。講義は学生に興味を持ってもらえるよう面白いものにするべく準備をしている。学生たちの間で生命社会学が話題になって、多くの学生が参加し、活発に議論を行うようになってほしい」と阿形氏。

阿形氏の研究にとってなくてはならない
FACS(蛍光を用いた細胞選別装置)

生命社会学は、文理連携を実現する新しいチャレンジとなる。学習院大学でしか受けることができない授業で、注目度は高い。この授業は、課題を解決するために思考できる人材を育成するための有効な教育であることは間違いない。

最先端の研究を行う総合大学であり、すべての学部が目白駅すぐそばのキャンパスにあるという特徴を生かした学習院大学の新しい取り組みは、高齢社会の課題解決、地域や社会との繋がりなど現代的なテーマを扱っており、さまざまな業界から注目されそうだ。

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