大学全入時代。現在は横ばいの18歳人口が減少を始める「2018年問題」に向けて、各大学は生き残りをかけて試行錯誤しながらも有効な変革の道を模索している。そんな中、激化する大学間競争を横目で見ながら、改革にさらに改革を重ね、他とは全く異次元の進化を続ける大学がある。
今や中堅の総合大学として9学部14学科を擁するまで拡大した武蔵野大学。その前身は、武蔵野女子大学という単科の女子大だった。この名前に馴染みがあるという人も多いだろうが、少子化による大学進学人口の減少に加え、女子の大学進学率の増加に伴った相対的な女子大の存在意義の埋没といった問題を解決すべく、2004年に男女共学化を決意。その後、薬学部、看護学部、教育学部に加え、法学部、経済学部、工学部などの学部をたったこの10年余りの間に開設したのだ。この改革や拡大は、前例のない驚くべきスピードで進んだ。
改革や拡大自体も大変なことではあるが、問われるのはその結果だろう。志願者は劇的に増加し、2年連続で2万人を突破。偏差値も向上した現在、中堅・上位の総合大学と肩を並べるまでになった。昨年度の国家試験の合格率は、看護師国家資格試験=99.0%、保健師国家試験=100.0%、薬剤師国家試験=76.5%。公務員・教員採用試験には143名(2015年3月末現在)が合格している。この合格率の高さは、全国トップクラスだ。ということは、改革は大成功といっていいのだろう。
総合大学としては後発の武蔵野大学が、この短期間になぜこれほどの実績をあげることができたのか。それはこの大学企画の第1弾(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41181)で詳細をご覧いただきたいが、一言でいえば、大学業界では珍しい「ガバナンス改革」が奏功し、社会のニーズに俊敏に応え続けることができたためである。
大学改革の次の一手に選んだのが「グローバル」
このように、様々な改革を推し進める武蔵野大学が選んだ次の一手が「グローバル」だ。大学が100周年を迎える2024年に向けて、大学全体のグローバル化に取り組み、オールイングリッシュで卒業できる学科も設け、内需だけでなく海外の学生の需要にも応えようとしたのである。では、多くの大学が「グローバル」や「国際」関係の学部を設置している中、武蔵野大学が進める「グローバル」とはどんなものなのか、他大とどんな違いがあるのだろうか。
武蔵野大学は、現在のグローバル・コミュニケーション学部(グローバル・コミュニケーション学科の1学科体制)を改編し、来年4月に3学科体制の「グローバル学部」の開設を構想中だ。(1)日本語・英語・中国語をマスターした“トライリンガル”を目指す「グローバルコミュニケーション学科」、(2)確かな日本語力で日本と世界をつなぐ“ブリッジ人材”を育成する「日本語コミュニケーション学科」、(3)グローバルに活躍した実務家からビジネス科目を英語で学び、“オールイングリッシュ”で卒業できる「グローバルビジネス学科」—— の3学科を新設する予定だ。
特にグローバルビジネス学科は、すべての授業を英語で行うため、英語を公用語とする国内外の企業等で活躍できる実践的な英語力が身につく画期的な学科だ。また、英語はできるが日本語ができない国々の学生も入りやすい学科となる。さらに、来年度からはグローバルビジネス学科の入学生のため、1年次の教養科目すらも英語で学べるように準備を進めているという。武蔵野大学のグローバル化はまさに本気なのだ。
新設するグローバル学部は、留学生が3割を占める予定で、つまり3人に1人が留学生。「大学内にいながら留学体験ができる、“学内留学”のような状態になる。現在のグローバル・コミュニケーション学部は約25%が留学生で、特に中国人留学生が多く、その影響か、中国や中国語に興味を持って中国の大学へ留学する日本人学生が増えている。将来グローバル、特にアジア圏で活躍するには、グローバルランゲージである英語の習得はもちろんのこと、中国語でのコミュニケーションが可能な“トライリンガル”が必要とされている。色々な国から訪れる留学生に刺激をもらって、どんどん海外へ行ってみてほしい」とグローバル・コミュニケーション学部長の示村陽一教授は言う。
グローバル・コミュニケーション学部長
示村 陽一 氏
武蔵野大学では、海外留学も積極的に支援しており、今年度からの4学期制導入(一部学科)に伴い、「第2学期留学プログラム」をスタート。2学期に必修科目を極力減らし、2学期と夏季休暇を組み合わせることで、海外に留学しやすい環境を整えた。1年目の今年は17名の学生がこのプログラムで海外へと飛び立った。プログラムについて示村教授は「日本人がグローバル化の波に乗るには、異文化との接触に戸惑うことのないメンタリティが必要。学生には、このプログラムを通し、外の世界を経験して、グローバルプレイヤーとして活躍できる素地を作ってほしい」と話す。
さらに、武蔵野大学では独自の特待生制度として、「グローバル・リーダーシップ・プログラム(GLP)」を2013年から実施(グローバル学部では、グローバルコミュニケーション学科とグローバルビジネス学科生が対象)。これは少数精鋭の特待生を集めたプログラムで、在学中に無料で3回の海外体験に参加することができ、卒業時の目標としてTOEIC 900点、TOEFL iBT 100点、中国語検定準1級以上を設定。あえて高い目標を掲げることで、卒業後、即戦力として活躍できる人材を養成する。産業界や行政などとの連携も推進し、外資系企業と協働するゼミにも参加している。示村教授によると、「GLPは2013年に開始したばかりなので、まだ卒業生はいないが、今後はGLP発の世界で活躍するリーダーが続々と登場するだろう」とのことだ。
武蔵野大学がキャンパスを置く臨海副都心・有明地区は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの時には、競技場がひしめく感動の中心地となる。そしてオリンピックが近づけば、選手や選手の家族、応援団、メディアなど、数多くの海外からのお客様がこの地を訪れる。その頃には、武蔵野大学によるグローバル人材の育成が実を結び、世界で通用する優秀な卒業生や学生がオリンピックの成功にも貢献していることだろう。
<取材後記>
武蔵野大学との取材の中で、海外学生と日本人学生との交流を行うためのプログラム「MUSASHINO JAPAN STUDY PROGRAM」(MJSP)を展開している、という話があった。
このプログラムの参加者は世界各地から集まっている。武蔵野大学の学生たちは、MJSP参加者たちと日本語学習や文化研修などを通じて密接な交流を図ることができるのだ。武蔵野大学の学生たちはこのような体験から、多様な文化とかかわりながらコミュニケーションを図ることを学ぶ。MJSPはグローバル化の足がかりとなる。座学だけでは学ぶことができない体験を数多く用意することで、真のグローバル人材を育成しているのだ。MJSPという1つのプログラムだけみても、グローバルに対する武蔵野大学の本気を感じ取ることができる。