ドイツに本社を置く世界的化学メーカー「BASF」は、2015年2月に戸田工業との合弁会社「BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社」を設立し、日本発のリチウムイオン電池材料業界のイノベーションを目指す。BASFは今年で創立150周年を迎え、化学メーカーとしてサステイナビリティを考慮したソリューションを提供している。(詳しくは前回の特集へ)

150周年記念イベントにて
(左から)BASF取締役会会長クルト・ボック、
ドイツ首相アンゲラ・メルケル氏、 ラインラント=プファルツ州首相マル・ドライヤー氏

 BASFが2011年より掲げる企業目標は「We create chemistry for a sustainable future.(私たちは持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくります)」。人口は増加傾向にも関わらず、地球の資源には限りがあるのは周知の事実だ。BASFは、化学こそがこの課題を解決し、持続可能な将来を作る推進力になると考え、同社の幅広いポートフォリオで持続可能なソリューションを提供している。創立150周年でBASFは、「食品」「都市生活」「スマートエネルギー」の3つのテーマを掲げ、ステークホルダーと新たなイノベーションを模索するという試みを行っている。

食品を通じて世界中の健康的な生活をサポートする

 150年の歴史のなかでも、BASFと食品は密接な関係にある。

 BASFの最も革新的な成功は、1902年のアンモニアの大量合成である。20世紀初頭にBASFが確立したアンモニア製造法「ハーバー・ボッシュ法」によって、肥料の工業化が実現し、世界中で化学肥料が使われるようになった。化学肥料を使うことでこれまでよりも作物の生産効率は格段に向上し、現在の世界70億人の人口を支える礎にもなった。このことを発端に、BASFは「食品」というテーマに大きく関わっていくことになる。現在、BASFは作物の収量を上げるのに貢献する殺菌剤や除草剤、殺虫剤などの農薬を取り扱っているほか、バイオテクノロジーを活用した研究開発にも取り組んでおり、農業生産の効率化や、栄養素を豊富に含む付加価値の高い作物の開発を行っている。

 BASFが手がける食品分野は、農業にとどまらない。食品やサプリメント、飲料などに使われるビタミン類、オメガ3などの製品も生産しており、不足しがちな栄養素を補うことで、より人々が健康的な生活を送れるようにサポートしている。他にも、食品の包装に使われるコーティング剤なども取り扱っており、美味しさを保ちながら長期間の保存を可能にするなど、食品業界の多くの場面でBASFは貢献しているのだ。

 だが、BASFはさらに先を見据えている。2050年に迎えると予想される世界90億人の人口を支えるために、食料は大きな課題である。これからも変わらず世界中の人々に栄養豊富な食品を届けるためにはどうすればよいのか。作物の生産だけでなく、貯蔵施設やサプライチェーンなど、何をどう改善すれば、それが実現できるのか。化学という枠にとらわれず、様々なステークホルダーと共にアイデアを出し合うことでBASFは新しい解決策を見出そうとしている。それが、BASFの150周年のコンセプト「共創(コ・クリエーション)」である。

都市生活とスマートエネルギーの課題解決に向けた取り組み

 BASFが150周年で掲げたテーマは「食品」のほかに、「都市生活」と「スマートエネルギー」である。いずれも、私たちの生活に直結するものだ。

 日本でも東京への一極集中は周知の通りだが、世界的に見ても都市への人口集中が顕在化しており、2050年までには世界の人口の70%以上が都市で生活を送るようになると予想されている。「都市生活」は、都市に暮らす人々が豊かで安全な生活を送るためには欠かせないテーマだ。コスト効率のよい建築、安全な飲料水の供給、廃棄物の管理など、現在においても解決すべき課題は山積みである。

 BASFは、「都市生活」においても、ソリューションを提供している。例えば、工期短縮やエネルギー効率化などを実現するコンクリート混和剤、エネルギー効率化に貢献する優れた断熱材、環境への負荷を低減する生分解性のプラスチック、より安全な水を提供する水処理剤など、多岐に渡っている。世界的な総合化学メーカーだからこそ、幅広い分野においたソリューションが提供できるのだ。

 また、「スマートエネルギー」も、これからの時代には無視できない課題である。環境負荷を軽減するための発電様式、効率よいエネルギー消費といった従来型の視点だけでなく、電力の貯蔵や輸送といった新しい観点も必要になる。今の生活を犠牲にすることなく、これらの課題を解決するために何が必要なのか。BASFは積極的に取り組んでいる。

 例えば、エネルギー貯蔵手段の1つに、リチウムイオン電池がある。すでにノートパソコンやスマートフォンなどに使われているが、今後は電気自動車への需要が見込まれている。現在の電気自動車向けリチウムイオン電池では、1回の充電で約50kmしか走行できないが、BASFでは200kmの走行を目標に、研究開発を進めている。2015年2月に設立した合弁会社「BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社」も、リチウムイオン電池用の部品を展開して、バッテリー材料産業のイノベーションを目指す。

 このような課題解決のためには、BASFは研究開発費を惜しげもなく投資する。2014年の研究開発費は、化学業界では最高となる約18.84億ユーロ(約2500億円)。世界で1万人以上の従業員がR&D関連の仕事に従事しており、進行中のプロジェクトは約3000件にも上る。このなかには食品や建築など、私たちの日常生活に貢献するものが多く含まれている。

「共創」を通じて、持続可能な将来をつくるための
挑戦を続ける

 BASF製品は、現在ではほぼすべての産業で使われており、今後もそれは変わらないだろう。さらに、他社や外部のステークスホルダーとの積極的な「共創(コ・クリエーション)」によって、化学メーカーだけでは実現できないイノベーションを起こそうとしている。それは、企業目標である「We create chemistry for a sustainable future.(私たちは持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくります)」にも現れている。

クリエータースペース

 共創の取り組みは、「クリエータースペース」というインターネット上のプラットフォームでも展開中だ。BASFの掲げる3テーマ「食品」「都市生活」「スマートエネルギー」は、クリエータースペースでも議論が交わされている。多くの人がアイデアを出し合い、実行していく中で、BASFとして貢献できることを模索するという試みだ。

 これまでも染料、化学肥料、プラスチック合成など、さまざまなイノベーションを起こしてきたBASF。150年の歴史のなかで培ってきた技術をさらに活用し、持続可能な将来をつくるために、今年も挑戦を続けていく。

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