2015年2月、バッテリー材料業界に新たな企業が誕生した。リチウムイオン電池向けの正極材を展開する「BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社」である。

 正極材とは、電池のプラス極に使われる材料だ。リチウムイオン電池は、ノートパソコンやスマートフォンなどのバッテリーとして広く使われている。また、今後需要の拡大が見込まれる電気自動車などにも搭載されている。現代では、なくてはならない製品だ。

約10㎢の広大な敷地を持つBASFドイツ本社

 BASF戸田バッテリーマテリアルズは、このリチウムイオン電池用正極材のリーディングカンパニーとなるべく、2社が出資して設立された合弁会社だ。1社は、150年の歴史をもつ世界的化学メーカー「BASF」。もう1社が、豊富な正極材の事業実績を誇る「戸田工業」である。

 BASFは、ドイツに本社を置く化学メーカーで、化学品の原料から農薬まで、高い技術力でさまざまな産業に貢献している。バッテリー分野においても、正極材だけでなくLEP、電解液といった電池材料も得意としている。世界中に生産拠点があり、投資力も強い。

 一方で戸田工業は、10年以上にわたってリチウムイオン電池用正極材の事業実績がある。製品を一貫生産できる設備をもち、正極材の年間の供給能力は1万8000トンにも上る。製品の品質は非常に高く、世界中の顧客から高い信頼が寄せられている。

BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社
設立記者発表会の様

 両社の強みを生かし、BASF戸田バッテリーマテリアルズでは、正極材の研究開発、製造、マーケティング、販売に注力する。主な用途は、電気自動車、民生製品、定置用蓄電池(風力発電や太陽光発電などの蓄電装置)だ。なかでも電気自動車に対しては、BASFがもつ自動車産業分野のソリューションやポートフォリオを活用するとしている。目指すは、バッテリー業界におけるイノベーションとグローバルリーダーだ。

創立当初からイノベーションを創出、
私たちの生活を豊かにしてきたBASF製品

 戸田工業と手を組んだBASFとは、どのような企業なのか。

 BASFは、ドイツで1865年に創立された総合化学メーカーで、今年でちょうど創立150年を迎える。「BASF」とは、創立時の社名(ドイツ語:Badische Anilin- und Soda-Fabrik(バーディシェ・アニリン・ウント・ソーダ・ファブリーク社))に由来する。Badenはドイツの地名、AnilineとSodaはそれぞれ化合物の名称である。

 BASFは創立当初から数多くの革新的な技術を生み出し、現在では化学業界で世界一の売上高を誇る。2014年の売上高は約10兆4300億円、従業員数は世界で11万人を超え、6カ所の統合生産拠点と、350カ所以上の生産拠点をもつ世界でも有数のグローバル企業だ。BASFの製品はあらゆる産業で使われており、私たちの生活には欠かせないものとなっている。BASFの歴史を紐解くと、すでに100年以上前から、現代を支える技術を生み出してきたことがよくわかる。

1. 1897年:世界初のインディゴ人工合成発売

中国向けインディゴラベル 1903年頃

 インディゴはジーンズなどに使われる染料だ。日本では藍として、浴衣などに用いられている。独特の色合いは、今でも広く好まれている。かつてインディゴは熱帯植物から作られていたが、生産には時間がかかり、供給量も不安定だったことから、貴重品として取引されていた。

 BASFは、インディゴの人工合成に世界で初めて成功し、1897年に「インディゴ・ピュアBASF」として販売を開始する。翌年には日本の商店も輸入し、世界中で売上を伸ばした。間もなく天然インディゴは姿を消し、現在では合成インディゴを使うことがほとんどだ。私たちが気軽にジーンズを手に取ることができるのも、BASFの歴史があるおかげだ。

2. 1902年:化学肥料の道を開いたアンモニア合成

 化学肥料は、現代農業には欠かせないものとなっている。化学肥料は、窒素を含むアンモニアから作られるが、アンモニアの大量生産に成功したのもBASFだ。20世紀初頭に製造法が確立し、2人の開発者の名前をとって「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれている。ハーバー・ボッシュ法は、高校の化学の教科書にも載っているほど有名なアンモニア製造法だ。2人とも、この製造法をきっかけに後年ノーベル化学賞を受賞している。

 アンモニアの大量生産は、化学肥料の使用が世界中に広まるきっかけとなった。化学肥料がなければ作物の生産効率が極端に下がり、現在の70億人の人口を支えるだけの食糧がなかったかもしれない。

3. 1929年:世界屈指のプラスチックメーカーへ

優れた特性を持つ軽量発砲スチロール
(スタイロポール) 1950年代

 プラスチックであるスチレンの合成にBASFは成功。1951年には、後に市場を席巻することになる軽量発泡スチロール「スタイロポール」の製造を開始した。

 現在では、ランニングシューズのソールやエンジンカバーなど車の部品など、多様な用途に対応できるプラスチックを製造しているほか、微生物が分解して土に還すことができる生分解性プラスチックなど、サステイナビリティを考慮した製品開発にも注力している。BASFは、世界屈指のプラスチックメーカーでもあるのだ。

化学でいい関係をつくり、イノベーションを「共創」する

 ここで紹介したのはBASFの業績のごく一部だが、工業から農業まで、広い分野で成果を上げてきた。今ではほぼすべての産業で、何らかのかたちでBASFの製品が使われているとも言える。

 BASFは特定の分野にこだわらず、あらゆる分野でイノベーションを起こし、私たちの生活の向上に貢献してきた歴史がある。

 BASFは、2011年に新しい目標を掲げた。それが「We create chemistry for a sustainable future.(私たちは持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくります)」だ。2050年に90億人に上ると言われている世界の人口を支えるには、地球の資源は限界がある。BASFは、化学こそがこの課題を解決する推進力になるとの考えのもと、積極的に事業を展開している。

 今年で150周年を迎えたBASFは、「共創(コ・クリエーション)」というコンセプトを掲げている。持続可能な将来の実現するためには、みんなが力を合わせる必要がある。BASFだけではなく、ステークホルダーとともに「共創」することで課題解決に向けた新たなイノベーションを創出していこうという意思が込められている。

 BASFの「共創」の取り組みは、インターネットでも展開している。プラットフォーム「クリエータースペース」だ。「都市生活」、「スマートエネルギー」、「食品」という3つのテーマで、世界の人々が意見を出し合える場を用意した。将来の住宅設計、エネルギーの貯蔵、フードロスなど、いずれも持続可能な将来を目指すには避けて通れない問題ばかりだ。人々とともに考え、共創し、化学メーカーとしてBASFがどう貢献することができるかを模索する新しい試みだ。

 150年の歴史のなかで、数多くの技術を生み出し、持続可能な将来を目指してきたBASF。150周年の「共創」をきっかけに、これまで以上にイノベーションに期待がかかる。今後、どの分野で、どの相手と「化学でいい関係をつくり」、私たちの生活に革命を起こすのか。注目すべき企業であろう。


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