デロイトのコンサルティングファームとして、米英に次ぐ3番目の規模を誇るのがデロイト トーマツ コンサルティング(DTC)だ。近年、需要の拡大に対応し、積極的に人材を採用している。当然、求める人材のスペックはきわめてハイレベルだ。だが、同社の近藤聡社長は、「スキルよりむしろマインドセットを重視する」と語る。同社が求める人材とは……。
群を抜くグローバルなカバレッジの広さは何を意味するのか
グローバルに活動を展開するコンサルティングファームは多い。しかし、デロイトの場合、そのスケール感が群を抜いている。世界150カ国以上に拠点を展開し、そのすべてにコンサルタント部隊がオフィスを構えているのだ。このカバレッジの広さは、どのような意味を持つのか。
デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)の近藤聡社長は、こんな例を挙げて説明する。
「たとえば南米のチリでプロジェクトを進めている日本企業がサポートを求めてくる。その場合、チリにオフィスのないファームは、まずオフィス探しから始めて、そこにコンサルタントを呼ばなければならない。一方、デロイトはチリにもコンサルティング・オフィスがあり、即日でも動き出せる。このスピード感の違いは決定的です」
アジア・パシフィック 地域代表
デロイト トーマツ コンサルティング 代表取締役社長
パートナー 近藤 聡 氏
しかも、デロイトは税務の部隊も内包している。いま、1カ国の枠内でクローズする案件はきわめて少ない。多くの場合、クロスボーダーの案件になる。そして、クロスボーダーの組織再編やM&Aでは、必ず税務の問題が付随する。この時、DTCならば税務の部隊を巻き込み、臨機応変にチームを組むことができるのだ。
いま、日本企業が直面する最大の経営課題は、グローバル化への対応である。DTCが持つ特徴は、グローバル化に対するコンサルティングを行う時、大きなアドバンテージになる。事実、DTCが取り扱うクロスボーダー案件はうなぎ上りに増えている。ニーズに対応するため、同社では積極的に人材を採用。2009年頃、同社の社員数は500名ほどだったが、いまは1700名を超えている。5年間で人員が3倍以上に増えた事実が、同社に寄せられる期待の大きさ、実績の確かさを端的に物語っている。
ヘッドワークをし惜しみなく汗もかく両面性が必要
デロイトでは、財務と人事は各国のファームが独自の決定権を持っている。これが、ヘッドクオーターの指示するままに動く支社的なファームとは大きく異なる点だ。近藤氏は言う。
「日本の市場、日本の企業のことは、いちばん近くにいる我々が最も知っている。だから日本企業に対しては、私たちが自律的に考え、柔軟に対応できるのです」
この緩やかな“連邦制”とでも いうべきフレキシビリティは、そこで働く社員にとってもメリットが大きいはずだ。
では、同社はどのような人材を必要としているのか。その問いに対し近藤氏からは、「志、気概を持っていること」という意外な答えが返ってきた。
「日本を強くする、というのが現在の私たちの目指すところです。そのためには日本に新しい産業を興すくらいのことをしないといけません。日本を何とかしようというモチベーションと気概を持って、企業や政府、行政に提言できるくらいの人にぜひ来てほしいのです」
もちろんそのためには高度な専門知識やスキルが必要になる。だが、「戦略を語るだけの人は、当社には向かない」と近藤氏は明言する。
コンサルティングを行い、ソリューションを提案し、それが決まったら具体策を細かいところまで設計し、さらにそれを実行するところまでできる人材こそ、同社が最も必要としている人材だ。つまり、高いレベルでのヘッドワークができ、現場に飛び込んで汗もかけるということだ。実際のところ、その両方を高いレベルで兼ね備えた人材はなかなかいない。ただ、少なくともその両方に関心があり、いずれに対しても拒否感を持たないのならば、最低限の条件をクリアする。
メンタル・ブロックが低いほど成功確率は高くなる
クロスボーダーの案件を扱うことが多いため、当然英語力は不可欠だ。しかし、近藤氏はこう言う。
「多少会話が苦手でも、ホワイトボードに文字を書いて外国人とコミュニケーションを取る。スキルよりそうした積極性こそ必要です。つまり、マインドセットの問題です。汗をかき、グローバルな能力を発揮するのは、こうしたメンタル・ブロックが低い人です。そのほうがコンサルタントとしての成功確率は高い」
同社の人材教育は、プロジェクトで実践的に学び育てていくOJTが基本だ。ただ、同時にデロイトには、「デロイトユニバーシティ」というプログラムがある。欧米とインドに施設があり、年間数万人がプロフェッショナル・リーダーになるための教育を受けている。近藤氏によればこのプログラムは招待制で、「日本のメンバーもどんどん招かれるようにしたい」という。
グローバル・ファームだが、いや、だからこそ、DTCは日本にこだわり、日本企業にこだわる。そしてチームで動き、組織で動くからこそ、個の自立を求める。
「既存の価値観を壊して日本を再生したい、というくらいの気概がなければ、コンサルタントをしてもおもしろくない。しかし、そういう気概のある人にとっては、DTCはとてもおもしろいフィールドになる」
近藤氏は、文字通り気概にあふれた力強い言葉で締めくくった。