コンサルタントを目指す人は、自己のさらなる成長を実現したいと考えているはずだ。
いま、コンサルタントに何が期待されているのか。
働き方やキャリア・デザインの描き方をどう考えるべきなのか。
人と組織の関係やリーダーシップの研究で知られる、
神戸大学大学院経営学研究科教授の金井壽宏氏に話を聞いた。
 

変化の激しい時代を迎えコンサルティングはコンテンツからプロセスへ

― 企業を取り巻く環境変化のスピードが年々加速しています。こうしたなかで、企業はコンサルタントに何を期待するのでしょうか。

金井 コンサルティングは最近、戦略のシナリオなど「内容」(コンテンツ)重視から、その実行も含めた「過程や手順」(プロセス)重視に軸足を移しています。

かつてのコンサルタントは、コンテンツとしての専門知識を切り売りするだけで、顧客から対価を得ることができました。しかし、企業のグローバル化やマルチファンクション化が進んでいる現在では、「私はこのコンテンツしか提供できません」というのでは、要望に応えることができません。何より変化の激しいこの時代に、特定のコンテンツだけではすぐに陳腐化してしまいます。

米マサチューセッツ工科大学で長く教壇に立ち、私の恩師でもあるエドガー・シャイン氏は、「プロセス・コンサルテーション・モデル」(プロセス・モデル)を提唱しました。これは、コンサルタントの役割は、クライアント企業に「こうすべき」と語るだけでなく、企業の自律的な対話や議論を通じて、内部から組織を変革するプロセスづくりを支援するものであるという考え方です。
 

―「コンテンツ」と「プロセス」が対語になっているというのは印象的です。コンサルタントとクライアントとの関係はどう考えればいいのでしょうか。

金井 かつては、医者と患者の関係に例えられることもありました。どこが悪いかわからない患者の病巣を発見し、処方箋を出すのがコンサルタントというわけです。
しかし、この関係が効果的とは限りません。たとえば、売上げが落ちている企業があったとしても、戦略の問題なのか、営業力の問題なのか、モチベーションの問題なのかわからないのに、最初から戦略のエキスパートの扉を叩くのは間違っています。しかし、実際にはそのような企業が多いのです。

シャイン氏の下で学んでいた時によく、道案内の例を示されました。「○○アベニューに行きたい」と尋ねる人には、つい最短の行き方を教えたくなりますが、もしかしたらその人が最終的に行きたい場所は別のところで、「○○アベニュー」は通過地点かもしれないのです。このシャイン氏の話は、コンサルティングにおいて、「謙虚に問いかけること(humble inquiry)」の大切さ教えています。

企業を変革させるカギは、実は企業のなかにあることがほとんどです。企業と〝並走〞し、それを導き出すことができるコンサルタントが求められていると感じます。