利と害の狂騒、薬と毒の見極めに“肝腎”な臓器

考究:食と身体(10)酒の神バッカス篇

2019.01.25(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要
酒を楽しめるのも「毒」を処理する身体の機能があってこそ。アイコンは酒の神バッカス。

 私たちは「食」の行為を当然のようにしている。では、私たちの身体にとって「食」とは何を意味するのだろうか。本連載では、各回で「オリンポス12神」を登場させながら、食と身体の関わり合いを深く考え、探っていく。
(1)主神ジュピター篇「なぜ食べるのか? 生命の根源に迫る深淵なる疑問」
(2)知恵の神ミネルヴァ・伝令の神マーキュリー篇「食欲とは何か? 脳との情報伝達が織りなす情動」
(3)美と愛の神ヴィーナス篇「匂いと味の経験に上書きされていく『おいしい』記憶」
(4)炉の神ヴェスタ篇「想像以上の働き者、胃の正しいメンテナンス方法」
(5)婚姻の神ジュノー篇「消化のプレイングマネジャー、膵臓・肝臓・十二指腸」
(6)狩猟の神ディアナ篇「タンパク質も脂肪も一網打尽、小腸の巧みな栄養吸収」
(7)戦闘の神マーズ篇「腹の中の“風林火山”、絶えず流れ込む異物への免疫」
(8)農耕の神セレス篇「体の中の“庭師”、腸内細菌の多様性を維持する方法」
(9)鍛冶の神ヴァルカン篇「ご注文は? 肝臓は臨機応変な“エンジニア”」

「毒まんじゅう」と聞いて、加藤清正と野中広務氏のどちらを連想するだろうか。

 加藤清正のほうは純粋に「毒の入ったまんじゅう」の意味で、「徳川家康と豊臣秀頼との接見の時に加藤清正がまんじゅうによって毒殺された」という真偽不明の噂による。

 野中氏のほうは、村岡兼造氏が自民党総裁選で支持を鞍替えしたことに対して「毒まんじゅうを食らった」と言及したことによるもので「利を求めて相手の術中にはまる危険を冒す」の意味だ。こちらの「毒まんじゅう」は2003年の新語・流行語大賞になっている。

 身体にとっても「純粋に毒でしかない毒」と「利と害を天秤にかける毒」とがあり、その境界線を決めるのは肝臓と腎臓である。すなわち肝臓での解毒が間に合わず、腎臓からも排出できない毒は「毒でしかない毒」となる。

「利と害を天秤にかける毒」として日常的に最も摂取しているのはエタノール、つまり酒であろう。エタノールが毒と聞いて驚いた人もいるかもしれないが、酩酊の血中濃度が0.3%前後なのに対して致死量のそれは0.5%にすぎず、利と害の間にある差は非常に小さい。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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