腹の中の“風林火山”、絶えず流れ込む異物への免疫

考究:食と身体(7)戦闘の神マーズ篇

2018.10.26(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要
乳児期の食事の方法によって、腸管の免疫反応を正常に保とうとする考え方がある。

 私たちは「食」の行為を当然のようにしている。では、私たちの身体にとって「食」とは何を意味するのだろうか。本連載では、各回で「オリンポス12神」を登場させながら、食と身体の関わり合いを深く考え、探っていく。
(1)主神ジュピター篇「なぜ食べるのか? 生命の根源に迫る深淵なる疑問」
(2)知恵の神ミネルヴァ・伝令の神マーキュリー篇「食欲とは何か? 脳との情報伝達が織りなす情動」
(3)美と愛の神ヴィーナス篇「匂いと味の経験に上書きされていく『おいしい』記憶」
(4)炉の神ヴェスタ篇「想像以上の働き者、胃の正しいメンテナンス方法」
(5)婚姻の神ジュノー篇「消化のプレイングマネジャー、膵臓・肝臓・十二指腸」
(6)狩猟の神ディアナ篇「タンパク質も脂肪も一網打尽、小腸の巧みな栄養吸収」

「疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如し」

 これは武田信玄の軍旗に書かれていたとされる『孫子』の軍争篇第七の書き下し文である。「風林火山」と言えばピンとくる人も多いだろう。

 この慣用句は、ヒトと病原体との攻防もよく表している。すなわち、病原体に感染すれば迅速に対処し(疾きこと風の如く)、その病原体の情報を確実に蓄積し(徐かなること林の如く)、再び感染したら大部隊でピンポイントに総攻撃し(侵掠すること火の如く)、どんな病原体にも対処できるように着々と準備を続ける(動かざること山の如し)のである。

 このように体内の異物を排除する総合的な防御システムを「免疫系」と呼んでいる。

外部と直に接触する腸管は常に臨戦態勢

 ギリシャ・ローマ神話においてこの免疫系を象徴するのは、やはり戦闘の神「マーズ」であろう。思想信条や敵味方は関係なく、基本的に闘いが好きな神だ。

 恐慌の神とされる「ダイモス」と、混乱の神とされる「フォボス」という2人の息子を引き連れ、戦車をひく馬に「火」「災難」「炎」「恐怖」などと名前をつけている。当然、暴走することもしばしばで、他の神々から厄介者として扱われ、たしなめられることも多い。とはいえ、外敵を撃退するために常に臨戦態勢なのは致し方ない面もある。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


食の万華鏡

食の安全に対して国民の関心が高まっている。今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。食の安全の話題を中心に、食トレンド、食品マーケットなど、食にまつわる様々なテーマを取り上げる。