腹の中の“風林火山”、絶えず流れ込む異物への免疫

考究:食と身体(7)戦闘の神マーズ篇

2018.10.26(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

 受け取った異物は、免疫系において「抗原」と呼ばれる。樹状細胞は「抗原」をもとにして、M細胞の裏側にいるT細胞やB細胞といった他の免疫細胞へその抗原の情報を提示する。すると、T細胞はヘルパーT細胞などに変身して、全身を巡りながら他のさまざまな免疫細胞へ抗原の情報を伝える。一方、B細胞は形質細胞と呼ばれる細胞に変化して、抗原を攻撃するタンパク質を合成できるように準備を進める(徐かなること林の如し)。

 その抗原を攻撃するタンパク質は「抗体」と呼ばれる。腸管免疫で合成されるのは「免疫グロブリンA」(IgA)と呼ばれる抗体であり、取り込んだ細菌などの抗原の情報に基づいて大量に合成される。そして、その抗体IgAは主に「杯(さかずき)細胞」というところから小腸内部へ分泌され、抗原となった細菌などを特異的に押さえにかかる(侵掠すること火の如し)。

 そして、一部のB細胞は記憶細胞として特定の抗原の情報をストックし続ける(動かざること山の如し)。

IgAなどの抗体は、細菌やウイルスなどの抗原を押さえにかかる。画像はイメージ。

「危険」と認識された抗原の情報は全身に知れわたる

 一方、腸管免疫系で「これは危険」と一度認定された細菌やウイルスなどの病原体の情報は、ヘルパーT細胞などによって、その“人相書き”が全身に知れわたることになる。そのため、病原体がどこから侵入しても、その場の免疫系によって対処可能だ。いわゆる「免疫がついて丈夫になった」といわれるものの多くは、腸管免疫経由だろうと考えられている。

 なお、抗体はIgMという原始的な型(クラス)から、腸管免疫などで活躍するIgAの他に、アレルギーに関係するIgE、全身免疫の主役であるIgGなどへ状況に応じて分化していく。このIgMからさまざまな型の抗体を発現させる「クラススイッチ」と呼ばれる仕組みを解明したのが、2018年度のノーベル医学・生理学賞受賞者の本庶佑(ほんじょ・たすく)博士である。クラススイッチは今回の受賞対象ではなかったものの、免疫学全体からすればより普遍性があり、極めて重要な概念である。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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