腹の中の“風林火山”、絶えず流れ込む異物への免疫

考究:食と身体(7)戦闘の神マーズ篇

2018.10.26(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

 免疫系は、体内の血管やリンパ管といった循環系、それに粘膜を使って、常に異物の監視をしている。循環系を使った免疫系である全身免疫系では、皮膚が物理的に損傷でもしない限り、異物が循環系に直接入ってくることはほぼないので、免疫の細胞が血液・リンパ液中にあふれてしまうようなことは稀である。

 一方、上皮細胞一層だけで外部と直に接触している口腔、気管支、腸管、生殖器などにおける粘膜は、常に臨戦態勢となっていなければならない。その中でも腸管、つまり小腸と大腸は特別な場所だ。

 小腸・大腸は、途切れることなくやってくる消化産物や胃酸を潜り抜けて増殖した細菌などに日々さらされている。言ってみれば「異物接触」の最前線であり、免疫系という観点からすると最も重要な拠点なのである。実際、体内の免疫細胞の7割程度が小腸・大腸に集中しており、その重要性から腸管の免疫は、全身免疫系に対して「腸管免疫系」と呼ばれている。

 では、具体的にどう闘っているのか。小腸を例に説明しよう。

M、樹、T、B・・・連携して攻撃態勢をつくる

 小腸内壁の絨毛構造の多くは、栄養分を吸収するための上皮細胞で構成されているが、その絨毛の中に緩やかなドームのような場所がある。そうした場所を「パイエル板」といい、そこに免疫に関係する細胞が集中している。

 そのパイエル板を構成する細胞の一種であるM細胞は、なんと消化産物や細菌をあえてそのまま取り込んで、それらを「樹状細胞」と呼ばれる免疫細胞へ提供する(疾きこと風の如し)。通常の免疫反応では、「異物が向こうから侵入してきた」という異常事態に対して応答が始まるのだが、腸管免疫ではあえて「敵を自らの懐へ取り込む」という荒業をやってのけるのだ。

パイエル板のイメージ。指図線の先にあるような楕円状の部分に、免疫関連の細胞が集中している。(出所:Smile Ratanadet氏による画像をもとに作成)
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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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