消化のプレイングマネジャー、膵臓・肝臓・十二指腸

考究:食と身体(5)婚姻の神ジュノー篇

2018.08.31(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

 例えば、ピロリ菌、アスピリンなどの消炎鎮痛薬、ストレス、暴飲暴食などが原因で「十二指腸潰瘍」になることがある。特にピロリ菌の影響は、胃潰瘍に比べて十二指腸潰瘍の方が大きいことが分かっている。そして、生じた潰瘍を放置すると腸壁に穴が開く「十二指腸突孔」になることもある。これは、体内と体外が無防備につながって部外者の体内への乱入を招く非常に危険な状態であり、すぐに手術が必要となる。この部外者乱入状態をそのままにすれば、腹膜炎などを引き起こして命を落とすこともある。

 また、胆汁から生じた胆石(コレステロールなどが主成分)が膵管に詰まったり、習慣的に過度の飲酒を続けたりしていると、膵管中のプロテアーゼが活性化し、膵管や膵臓を傷つけて「急性膵炎」になることもある。この状態でうっかり何かを食べてしまうと、自動的に消化酵素が分泌されるため炎症はさらに悪化してしまう。まずは、病院で栄養分の輸液(点滴)をし、胆石があれば取り除く必要がある。

コレステロールが主成分の胆石の例。1cmを超える大きさになることも。

「身内」化には膨大なエネルギーが必要

 十二指腸潰瘍や急性膵炎は、どちらも激しい痛みに苦しむ疾病である。羽目をはずしたことによって、婚姻の神であるジュノーの逆鱗に触れた結果として生じる場合もあるだろう。手間暇かけて構築したシステムを壊されれば、それを修復するためにジュノーも強硬手段をとるほかない。それがさらに状況の悪化をもたらすのだ。

 では、なぜそうなるのか。実は、部外者(食べたもの)を体内で使える「身内」にするには多大なコストが必要なのである。消化吸収に使われるエネルギー(食事誘発性熱産生)は、標準的な1日の消費カロリーの1~2割程度にもなる。これは裏を返せば、システムが破綻した場合、本来は消化を維持するための膨大なエネルギーの一部が組織の破壊に使われてしまうということであり、身体へのダメージもより大きくなるのだ。

 ともあれ、ジュノーの逆鱗に触れて身体の内側と外側が融合するような事態にならないためには、万全の対策とはいえないものの、暴飲暴食を控え、できるだけストレスの少ない生活を送ることが肝要となる。

 さて、次はいよいよ消化されたものが体内へ入ってゆく。「体内に入る」とは具体的にどういうことなのだろうか。

(第6回へ続く)

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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