ブイヨンも手作り? 手が込んでいた昭和の家カレー

「栄養と料理カード」でたどる昭和レシピ(7)カレーライス

2018.08.24(Fri) 三保谷 智子
筆者プロフィール&コラム概要

牛肉2個ほど、じゃが芋もにんじんもなしでソースばかり?――昭和13年

1938(昭和13)年6月号の「栄養と料理カード」。「メリケン粉」は小麦粉のこと。戦前の計量スプーンは統一されておらず、このカードでは「D.S.=デザートスプーン14cc」「t.s.=ティースプーン7cc」を使用。
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 肉は牛肉だが、1人分40gを一口大に切ったら2個ほど。じゃが芋もにんじんも入らないカレー。5人分で、カレーソースたっぷりの中に肉が10個ぐらいという仕上がりと想像できる。

 鍋に油を熱して強火で玉ねぎをきつね色になるまで炒め、小麦粉を加えて炒める。カレー粉、スープを加えて溶き混ぜる。ここに、別鍋で炒めた牛肉とにんにくを加えて肉がやわらかくなるまで弱火で煮込む。塩で調味し、赤とうがらし、皮ごとすりおろしたりんごを加え、最後にしょうがを加えて火を消す。

 備考欄に、りんごは甘みを加えるため、赤とうがらしやにんにく、しょうがは複雑な風味を加味するために使用すると説明がある。興味深いのは、いちばん最後にしょうがを加えるのは香りと辛味を生かすためとの解説。ただし、以降で紹介するカレー4品の作り方を見ると、しょうがは初期の段階で玉ねぎとともに炒めている。

 本号は表紙に「胚芽米特集」とある。脚気(かっけ)が国民病といわれた時代が長く続き、昭和初期に、脚気はビタミンB1不足による病気と解明された。ビタミンB1は米の胚芽に多く含まれるため、胚芽を残したまま精米した胚芽米を日本じゅうに広めようと、栄養と料理学園(現・香川栄養学園、女子栄養大学の母体)が推奨し、本誌を通しても栄養改善運動をしていた。本カードでも「胚芽米」と明記している。

豚肉2個ほど。じゃが芋、にんじん入り。本格ブイヨンで――昭和29年

1954(昭和29)年8月号。カードの料理の食材に合った小さな広告入り。
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 料理名は「ホーム・カレー」とユニークである。前年9月号のカードには「ホーム・コロッケ」もある。当時、洋食屋で食べていた料理に対して、「家で手作りする」という意味合いを強調した命名であろうか。

 前項の1938(昭和13)年のカードと異なり、肉は豚肉。それに、じゃが芋、にんじん、トマトも入る。解説によると、1人分ブイヨンは1.2カップ、具は1カップ強が適量。

 裏面には本格的なブイヨンの作り方が明記されていて驚く。魚の場合はアラと骨で、肉の場合は鶏の骨または牛骨で作る方法がていねいに書かれている。が、実際に香草や香味野菜を加え、1時間半煮出してブイヨンをとる手間をかけて作った人はどのくらいいたのだろうか。現在なら、水と固形あるいは顆粒のブイヨンを使うところだ。

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三保谷智子(みほやともこ)

栄養と料理』元編集長。2011年4月から香川昇三・綾記念展示室勤務。学芸員。

東京都出身。1977年立教大学文学部史学科卒業後、香川栄養専門学校栄養士科(現 香川調理製菓専門学校)へ進学、「栄養士」の資格を取得。その後、1979年女子栄養大学出版部雑誌編集課に入職、約30年『栄養と料理』の編集に携わる。1988年より2011年まで、10年間編集長を務める。途中、同部マーケティング課、書籍編集課に在席。

独立行政法人国立健康・栄養研究所外部評価委員。「食生活ジャーナリストの会」会員、NPO法人「野菜と文化のフォーラム」会員、NPO法人「くらしとバイオプラザ21」理事。現在、『栄養と料理』で連載「レシピの変遷シリーズ」を執筆中。


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