地政学リスクがもたらす悪い原油高

イラクで代理戦争の恐れ、サウジアラビアの内政には不穏な動き

2018.05.25(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53155
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 イラン産原油を購入していない米国は、世界各国にイラン産原油の輸入削減を要請している。しかし、イラン産原油の最大購入先であるEUが米国の制裁に対して反旗を翻していることが前回と大きく異なっている。5月18日、EUは米国による対イラン制裁再開への対抗策として第三国が制定した法律の適用を阻止する「ブロッキング規則」を発動する方針を明らかにした。ブロッキング規則が発動されれば、欧州企業が米国の制裁の対象となっても、罰金の適用は除外されるほか不利益を被った企業には補償が与えられる。

 欧州の銀行は米国の制裁を恐れて、原油の購入代金をイランに送金することに逡巡し始めている(5月11日付OILPRICE)が、EU委員会は「(銀行に代わり)各加盟国政府が直接イランの中央銀行に対し原油購入代金を振り込む」ことを検討するよう促した(5月18日付ロイター)。

 前回の制裁で最もインパクトが大きかったのは、EUの保険業界がイラン産原油を運搬するタンカーへの保険付与を停止したことだった。だが、EUが米国と対立してでもイランとの関係を保持する姿勢を示せば、保険付与も大きな問題にならないだろう。

 国ベースで最もイラン産原油を購入している中国も、その購入を続ける意向を示している(5月11日付OILPRICE)。原油価格が1バレル=50ドル台後半でも財政が維持できるイランが割安価格で原油を供給する攻勢に出れば、足元の原油高で苦境に陥る発展途上国はその購入をむしろ拡大する可能性すらある。

米国産原油のシェアは高まる一方

 一方、米国のシェールオイルの「大躍進」は止まらない。

 直近の米国の原油生産量は日量約1072万バレルとなり、過去最高の更新が続いている。米エネルギー省は5月に入り、「今年末の原油生産量を過去最高の日量1117万バレルになる」と見通した。これまでシェールオイル増産を牽引してきたパーミアン地区に加え、バッケンやイーグルフォードなどの鉱区も再び活気を取り戻してきており(5月15日付OILPRICE)、シェールオイルの生産量は6月に日量約718万バレルにまで拡大する見通しである(前月比約14万バレル増、前年比28%増)。

 シェールオイル鉱区にはコスト面から開発が中断された「採掘済み未仕上げ(DUC)」の油井数は約8000基に上っており、原油高はDUCの開発再開を後押しする可能性が高い。そのため、石油掘削装置(リグ)稼働数が横ばいになっても、シェールオイルの増勢が止まることはないだろう。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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