先週に引き続き今回もキプロス問題の1週間を振り返る。まずは、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙から。マーティン・ウルフ氏が「欧州の混乱に拍車をかけるキプロス危機」を書いている。先週の段階では、預金保険で保護されるべき10万ユーロ以下の預金者に対してもヘアカット(元本削減)するような救済案が示されていた。
解決に向かい始めたキプロス問題だが、根本治療には程遠い
しかし、大口預金者であるロシアを意識したこの案はキプロス国内のみならず他のユーロ圏各国からも受け入れられなかった。
その結果、示された案は「銀行の秩序ある破綻処理で期待される施策に比較的近いものになっている」とウルフ氏は言う。
ユーロ圏全体として見れば、キプロスの銀行危機は他の国を揺るがすような大きな問題ではなく、実際に他のユーロ圏諸国の銀行金利の大きな影響は与えていないだけに、妥当な案が示されれば、問題は解決に向かっていくだろう。
しかし、とウルフ氏は言う。「一時的なものこそ長く続く」というフランスの諺を引き合いに出して、キプロス問題は長い期間にわたってくすぶり続ける危険性が高いと言うのだ。
そして、新たな問題が噴き出すたびに、ユーロ圏では債権国と債務国の間に生じた亀裂が深くなる。
まさにその点をドイツに住んでいる川口間ローン恵美さんが「キプロスを助けても感謝されないドイツの恨み節」で書いている。
国民はどんどん泥沼にはまっていくような不安に苛まれている。ザルを相手にしているような感じだ。キプロスの場合、『なぜ我々の税金でロシアの金持ちの預金を守らなければいけないのか?』という疑問も、怒りとなって噴出している」
EUに加盟していないノルウェーやスイスのように、強い通貨だったマルクを持ったままEUには加わるべきではなかったという意見がドイツ国内で多く聞かれるようになっているという。
FT紙のウルフ氏も、こうした感情的な亀裂こそ今後のEUにとって最も大きな問題になると見ている。「危機になれば怒りの感情が表面化する。ユーロは欧州のまとまりを強めるどころか弱めてしまうのではないかというかつての懸念は、以前よりも妥当性が増しているように思われる」。
そのうえで、EUが行っている緊縮型の財政運営では決して問題は解決せずに、逆に問題の根を深めてしまうと見る。
「この戦略では、ユーロ圏で経済の脆弱な状態が続き、比較的弱い国がいつまでも債務危機や銀行危機、失業危機に見舞われ続けるのは確実だ。その一方で、ユーロ圏の現在の構成メンバーを維持するという決意は非常に固い。つまり、どうやっても抑えられない強い力とどうやっても動かせない物体が正面衝突することになるのだ」
このほか、FT紙ではキプロス問題を扱った記事として「ロシア人の大脱出に怯えるキプロス」「分裂にさらに近づいたユーロ圏」がある。
一方、キプロス問題と対照的に日本のアベノミクスについては「高齢者から奪い、若者に与える安倍首相は正しい」の記事で好意的に書いている。