中国駐在員の方や中国に出張に行かれた方で、中国の高速鉄道を利用された方は多いと思う。同時に、「切符を買うのにも駅に入るのにも一苦労で、スムーズに乗れない」「ダイヤが分かりにくい」などの経験をされ、中国の高速鉄道があまり便利ではないと思われた方が多いのではないだろうか。日中両国の鉄道を趣味とする筆者の見聞から、「なぜ中国の高速鉄道は不便なのか」を考えてみたい。

自由席がなく、停車駅はランダム

 まず、中国の高速鉄道は一部の短距離路線を除いてすべて列車・座席指定である。自由席はない。最初から乗車時刻を決められる場合ならよいが、時間が不安定なビジネス利用にとっては不便である。

 こうした声に応えてか、当日中なら指定列車より後の列車にも立ち席扱いで乗れるようにはなったが、早く駅に着いてしまったときには、やはり指定列車の時刻まで待たなくてはならない。また、希望列車が満席の場合、短距離便を除いては立ち席券は売らないので、「立ち席でもいいからどうしても乗りたい」という時はお手上げになることもある。

 なお、北京~天津、広東~深センの2区間では、プリペイドカードによる直接乗車方式を導入しており、プリペイドカード利用者向けの座席に指定無しで着座することができるようになっているが、現在のところ、他の区間には広がっていない。

北京~上海間を結ぶ中国国鉄・京滬高速線の時刻表の一部。停車駅がランダムに設定されている。(『全国鉄路旅客列車時刻表』中国鉄道出版社、2012年7月号より)
拡大画像表示

 ダイヤの組成も不合理である。途中停車駅は少なく、かつ、すべてランダムに設定されている(これを「千鳥停車」という)。分かりにくいし、途中駅どうしの移動は困難極まる。

 日本の新幹線のような緩急結合ダイヤ(例えば、東海道山陽新幹線における、各駅停車の「こだま」と速達列車の「ひかり」「のぞみ」が役割分担をしつつ主要駅で接続するダイヤ)の導入が待たれる。

 中国高速鉄道各路線は、「区間便」の存在が極めてまれだ。基本的に、起点と終点を結んで全線走破する列車しか設定されていない。そのため、両端の駅では終列車が早い時間帯に終了してしまうこともある。これでは、近隣都市との都市間輸送を担うことはおよそできない。

 例えば、河南省の鄭州と陝西省の西安とを結ぶ徐蘭高速線鄭西段では、西安発の上り列車は19時50分鄭州行き、鄭州発の下り列車は20時40分西安行きがそれぞれ最終列車である。これらに見られるように、中国高速鉄道は、途中駅を軽視し、各路線の起点と終点とを結ぶことばかり重視しているきらいがある。

乗り換えができない中国高速鉄道

 面的な移動ができないことも問題である。ダイヤの面で言えば、高速鉄道の各線どうしの接続はまったくと言っていいほど考慮されていない。いわんや高速鉄道と在来線の接続は述べるまでもない。それに、そもそも中国の高速鉄道路線は、早期完成を優先させた結果か、在来線駅とは別に市街地から遠く離れた場所に建設された駅が多い。高速鉄道の駅と在来線の駅との間がバスで1時間かかるということもざらなのだ。