日本における「ニンニク」の存在を見つめ直している。強烈なにおいを放つこの“孤高の食材”を人々はどう捉えてきたのか。前篇では、日本におけるニンニクの歴史をひもといた。そのにおいから仏教の戒律で避ける対象となったニンニク。それでも江戸時代の料理集や明治以降の新聞にニンニクは登場し、戦後、肉料理や油料理を受け止める食材としての役割を果たすようになった。

 ニンニク料理は「におう」だけでなく、「精力がつく」「元気が出る」といった強壮面の効果も言われている。でも、そのように言われるのはなぜなのか。また、ニンニクの体への作用には他にどのようなものがあるのか。後篇では、こうしたニンニクの体への効果に目を向けて、ニンニクの成分を研究する日本大学生物資源科学部の関 泰一郎教授に解説してもらう。実は、ニンニクのにおいと、ニンニクの体への効果は、切っても切り離せない関係のようだ。

敵を遠ざけるためにおいを放つ

関 泰一郎氏。日本大学生物資源科学部生命化学科栄養生理化学研究室教授。農学博士。日本大学農獣医学部助手、講師、米国ミシガン大学医学部人類遺伝学科博士研究員、日本大学生物資源科学部講師、准教授を経て、2011年より現職。専門は、栄養生化学、生理活性物質化学など。共著書に『健康栄養学 健康科学としての栄養生理化学』(共立出版)がある。

 まず、そもそもなぜニンニク料理はにおうのか。ニンニクにはニンニクなりの、においを放つ理由があるはずだ。ニンニクはにおいを放つのみだが、関氏がその理由をこう代弁した。

 「ニンニクにとって、あのにおいは忌避効果をもたらすものです」

 忌避効果とは、敵を寄せつけない効果のこと。自分が食べられたり、細菌に感染したりしなければ、生存や種保存の可能性が増す。そのためニンニクは、多くの生きものや細菌が避けるあのにおいを発するのだ。

 だが、スーパーマーケットなどに並んでいるニンニクには、あまりにおいを感じられないが・・・。

 「においのもととなる物質が細胞の中にあり、別の細胞の中にはにおいを作る酵素があります。鱗片が傷つくとこの2つの物質が出合って、においが放たれるのです」