アベノミクスで日本経済に明るさは見えてきた。しかし、自動車や家電産業などに次ぐ新しくて大きな成長分野を日本は持っているかと問われれば、残念ながら考え込んでしまう方が多いのではないだろうか。

 実は、うまく育てれば日本を支える大きな柱になりそうな産業がある。住宅産業である。何言っているんだ、住宅着工件数は減るばかりだったではないかとの声はもちろん承知の上。今までの技術ではないからこそ新しい発展が期待できるのである。

 しかも、それは日本の山に植えてある杉や檜などの材木を徹底して使う。日本の林業が力強く復活するという可能性まで秘めているのだ。

 そればかりではない。いままで欧米が先導してきたコンクリートの住宅が多いアジア各国で使われ始めれば、一大輸出産業にもなり得る。なぜなのか。それを住宅研究所の岩田司・研究主幹に聞いた。 

地域性を生かした住宅づくりを目指す「HOPE計画」

建築研究所の岩田司研究主幹・筑波大学大学院教授

川嶋 岩田さんは地域性を生かした住宅づくりに取り組まれています。まずは日本の住まいの変化について、簡単に振り返っていただけますか。

岩田 1945年に第2次世界大戦が終わった直後の住宅政策は、とにかく寒さを防ぎ、家を失った、あるいは外地から復員した国民に凍死者を出さないことでした。

 そこで大都市を中心に越冬住宅が準備され、これが現在の公営住宅につながっています。

 戦後の大きな変化の最たるものは、工業化が進む中で住宅の画一化が進んだことです。いわゆるプレハブ住宅。工場で作った部材を全国に持っていって組み立てるという方式ですね。

 併せて新建材を開発した。木っていうのは割れるし曲がるし、工業化には向かないところがありますから、プラスチック系の素材に代わっていきました。

 で、気づいてみると、故郷の風景が東京と変わらなくなっていた。あるいは木造住宅と言いながら新建材に囲まれて、木の香りのしない家ばっかりになってきました。

 これには明治政府以来の中央集権体制も関係しています。

 中央で設計方も施工法も考えて、その上に予算までつけて、地方ではそれにしたがって造ればいい。いわゆる標準設計です。もちろん地元との折衝など苦労は多いですが、こうなると地域性は発揮できませんね。