写真提供:山陽新聞/共同通信イメージズ

 物流と地球社会を持続可能にするために、今何が必要なのか。デジタル先端技術から経営戦略まで、世の誤解・曲解・珍解を物流ジャーナリスト・菊田一郎氏が妄想力で切りさばく連載企画。

 第10回は、「物流の適正化・生産性向上に向けたガイドライン」で定められた「荷待ち、荷役作業等にかかる時間を計2時間以内とする」ルールの実態を探る。

連載
菊田一郎の痛快コラム「物流ミライ妄想館」

物流と地球社会の持続可能化=サステナブル化のため、今何が必要なのか。デジタル先端技術から経営戦略まで、世の誤解・曲解・珍解を物流ジャーナリスト・菊田一郎氏が妄想力で切りさばく。 

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改正物効法に明記された効率化策は2つ

 物流を巡る産業界の熱視線が今、「新・物流2法」に集中している。かつての「旧・物流2法」とは、1990年施行の「貨物自動車運送事業法」と「貨物運送取扱事業法」である。

 以前も触れたが、これらは新自由主義的規制緩和策として知られ、トラック運送事業者の新規参入障壁を極端に下げたことで市場をレッドオーシャン化。運賃低下の政策目標を達成し荷主優遇に成功した一方、容赦なき過当競争にさらされた運送業界は長時間労働・過剰サービスと低運賃を強いられ、泥沼の苦境に。

 30余年を経て賃金低下と人口減でトラックドライバー不足の極まった結果が、物流危機として私たちに降りかかっているのである。

 これに対し「新・物流2法」とは、この春に改正された「物資の流通の効率化に関する法律」(旧物流総合効率化法、本稿では「改正物効法」等と記す)」と「貨物自動車運送事業法」で、旧2法とは完全真逆の規制強化施策となっている。政策的リカバリーということだ。

 その中から本コラムで俎上(そじょう)に載せるのが、改正物効法の規定にひも付けられた、うわさの「2時間以内ルール」である。産業界の注目度も高く、各荷主業界が発出する行動指針でも言及されている。ただし本法の条文にその文字通りの記載はなく、当該箇所の表記は以下となっている。

改正物効法 第四十二条(荷主の努力義務)

荷主は貨物の運送を委託する場合には、当該貨物を運送する運転者の荷待ち時間等の短縮及び運転者一人当たりの一回の運送ごとの貨物の重量の増加を図るため、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。(一部略、「次に掲げる措置」とは①積合せその他の措置、②一時に多数の貨物自動車が到着しないようにすること、③パレットその他の輸送用器具を利用できるようにすること、の3点)
(*太字、色字、下線は筆者が付加)

 ここでのポイントは2つ。第1に、本法によって全ての荷主・物流事業者に、「物流効率化への努力義務」が課されたこと。罰則も設けられた。つまり物流効率化が関連企業の「義務」になったのだ。規制的措置と言われるゆえんで、旧・物流2法時代に比べると隔世の感がある。

 第2に、法文には本項で「物流効率化」の具体的な目標が2つ明記されたこと。上の赤字部分であり、「荷待ち時間等の短縮」「一回の運送ごとの貨物の重量の増加を図る」ことである。2点のみに絞り込んでいるが、これを効率化の核心策とすること自体に異存はない。

「はあ? ……じゃ<2時間以内ルール>って、どこに書いてあるんだよ」とお思いであろう。この法文には書いてない。ではどこにあるのか?

 そもそも、「2時間」とは何を指すのか? 筆者は調査取材を始めたのだが、答えを見つけたと思ったらまた次々に新たな疑問が浮かび、いつか迷宮をぐるぐる巡る冒険譚になってしまった。面白かったのでこの体験をぜひ、読者諸氏にも共有していただければと思う。さあ、「2時間以内ルール」を巡る小さな冒険に、出発だ!