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 物流と地球社会を持続可能にするために、今何が必要なのか。デジタル先端技術から経営戦略まで、世の誤解・曲解・珍解を物流ジャーナリスト・菊田一郎氏が妄想力で切りさばく連載企画。

 全産業の物流部門が講じるべき地球温暖化抑止対策を考える3回シリーズの最終回となる今回は、物流脱炭素化とGX(グリーントランスフォーメーション)を実現するための7つの具体策について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 「2024年物流危機」は“2025年”に訪れる!~悪夢の年末・年度末
第2回 「炭素予算」が底をつく――全産業の物流部門が直視すべき地球の危機
第3回 2050年排出ゼロへ、〈再エネ革命/RE100〉が生む巨大な安全保障/地政学的価値
■第4回 ZEV、モーダルシフト、PPAで実現 物流脱炭素化/GXの7つの具体策とは?(本稿)


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物流脱炭素化/GXの具体策

「地球の沸騰を防げ! できることを今すぐ、すべてやるべき3つの理由」も、いよいよ最後の理由に進む。

 それは、「今できることが、こんなにいっぱいある」ことだ。いくら喫緊のテーマでも、何年も準備をしなければ対処できないことばかりであれば、様子見も致し方ない。しかし、そうではないのだ。今回は、初めに筆者が提唱する「物流脱炭素化/GX(グリーントランスフォーメーション)・7つの具体策」について全体像(図表1)を示した後、各項目について概説する。なお[Scope1-3]の意味は注記*1を参照されたい。

*1/環境省資料から要点と補足のみ記す。詳しくは下記原典へ。
[Scope1]事業者自らによる温室効果ガス(GHG)の直接排出(化石燃料の燃焼、工業プロセス):輸送機関からの排出
[Scope2]他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出:社屋・工場・倉庫等の電気等使用に伴う排出
[Scope3] Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出):サプライチェーン排出量。物流については取引先等との調達・輸配送に伴う輸送機関からの排出をすべて含む
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html

① [目標と計画]自社のGHG排出量を算定し、削減目標と実行計画を決める

 自社のGHG排出量は実際、どれほどなのか。自らの現実を見える化し、自覚することが出発点となる。その上で削減目標と期限を定め、行動を開始する。筆者が3年前にこの主張を始めた頃はわずかな例しかなかった「CO2排出量見える化サービス」が、今では単純な輸配送から国際輸送に至るまでを対象に多数提案されており、選択肢はより取り見取りである。

 ただし目標設定には注意されたい。現在、国内の多くの企業は日本政府が国際公約した中期目標、「2030年度までに2013年度比でGHGの排出を46%削減」に準拠して自社の目標を決めていると思う。

 ところが、昨年末の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、<2035年までにGHGを2019年比で60%削減>を新目標に設定することで世界が合意した。

 日本の中期目標とよく比べてみてほしい。基準年が6年繰り下がり、目標年は5年先になるが、削減目標は14ポイントも高い。現目標では新目標達成が厳しいことはすぐ分かる。橘川武郎国際大学学長・大学院国際経営学研究科教授がCOP新目標の年限と削減量を、日本の現目標に合わせて2013年度比に換算した結果では、以下になるということだ。
2035年にGHGの排出を2013年度比で66%削減

 年限は5年先だが目標値は「20ポイント」も上がる。COPの宣言に日本も同意したのだから、本年改定予定の「第7次エネルギー基本計画」も、この新目標と整合性を取る他ないのではないか。その時、各社が目標策定の根拠とした数値が変わる。これから目標設定を検討、または再検討するなら、この新目標を踏まえることをお勧めしたい。