物流2024年問題と呼ばれる労働規制が始まり、人手不足と物流の停滞が問題となる中、物流システムを根本的に変革する「フィジカルインターネット(PI)」と呼ばれる構想が、2040年の実現に向けて具体的に動き始めた。神戸大学大学院で国際交通、物流を研究する平田燕奈氏は、日本の物流界にこそPIが必要と語る。その理由を聞いた。
高度な物流インフラを持ちながら、デジタルで出遅れが目立つ日本の物流業界
――日本の物流業界が、海外と比べて一番違うところは何ですか。
平田燕奈氏(以下・敬称略) 日本だけでなく、世界の物流界は大きな問題に直面しています。さまざまな課題がありますが、その1つが「荷物の小口化」です。例えばフランスでは、過去30年間で貨物1個あたりの平均重量が160kgから6.6kgに減少し、2030年には1.5kgになると予想されています。それだけ運ぶ荷物の数が増え、手間やコストが増加しています。
他にも、人材不足は世界共通の課題であり、燃料費の高騰、過剰包装による環境負荷の増大など、改善しなければいけないテーマは山積みです。このままでは、物流は持続不可能だといわれています。
世界中で物流改革への取り組みが始まっていますが、日本の物流業界を見たときに最大の問題だと思うのは、デジタル化の遅れです。もともと日本の物流インフラは、アジアでもトップクラスの水準であり、東南アジアやグローバルサウスの国への支援も行っています。
しかし、充実したインフラを持ちながら、それを動かしているのが人であることが問題です。それが今、物流の2024年問題のなかで表面化してきており、デジタル化の遅れが他国よりも目立つようになってきました。
1つ例を挙げますと、コンテナ輸送における、港のゲートでコンテナの確認作業があります。港でコンテナを受け取った輸入業者は、コンテナから荷物を取り出して、そのコンテナを指定のターミナルに返却します。その際、コンテナにダメージや傷、汚れがないか確認してから返すのですが、日本では、その確認作業は全て人の手で行っています。そのため確認に時間がかかり、トラックが渋滞することもあります。
一方で、中国の上海にあるスタートアップ企業は、AIを導入してこの作業を自動化する仕組みを開発しました。あらかじめターミナル内の特定の場所にカメラを設置しておき、そこでコンテナを積んだトラックが止まるだけで、自動的にコンテナの損傷をカメラで撮影し、チェックします。チェック結果がバックヤードに送られ、結果がOKならそのままゲートを通過できるという仕組みです。
この仕組みは2019年に上海の港でトライアルが始まったのですが、当時ではすでに98%以上の精度があるとのことでした。そこから5年で中国全土に利用が拡大し、精度もさらに向上していると思います。
対して、日本ではゲートでの確認作業は人の手で行い、事務手続きも全て紙ベースです。効率化では大きく後れを取っていると言わざるをえません。