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 物流2024年問題と呼ばれる労働規制が始まり、人手不足と物流の停滞が問題となる中、物流システムを根本的に変革する「フィジカルインターネット(PI)」と呼ばれる構想が、2040年の実現に向けて具体的に動き始めた。神戸大学大学院で国際交通、物流を研究する平田燕奈氏は、日本の物流界にこそPIが必要と語る。その理由を聞いた。

高度な物流インフラを持ちながら、デジタルで出遅れが目立つ日本の物流業界

――日本の物流業界が、海外と比べて一番違うところは何ですか。

平田 燕奈/神戸大学大学院海事科学研究科・准教授

2016年神戸大学経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。丸紅、A. P. Moller‐Maersk Groupを経て、2019年神戸大学数理・データサイエンスセンター入職。2022年4月より神戸大学大学院海事科学研究科准教授(現職)。データサイエンス人材の育成に従事しながら、交通分野での経済・経営理論とデータサイエンス手法を融合した研究を行っている。

平田燕奈氏(以下・敬称略) 日本だけでなく、世界の物流界は大きな問題に直面しています。さまざまな課題がありますが、その1つが「荷物の小口化」です。例えばフランスでは、過去30年間で貨物1個あたりの平均重量が160kgから6.6kgに減少し、2030年には1.5kgになると予想されています。それだけ運ぶ荷物の数が増え、手間やコストが増加しています。

 他にも、人材不足は世界共通の課題であり、燃料費の高騰、過剰包装による環境負荷の増大など、改善しなければいけないテーマは山積みです。このままでは、物流は持続不可能だといわれています。

出所:神戸大学「世代物流ネットワーク「フィジカルインターネット」の仕組みと導入例」
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 世界中で物流改革への取り組みが始まっていますが、日本の物流業界を見たときに最大の問題だと思うのは、デジタル化の遅れです。もともと日本の物流インフラは、アジアでもトップクラスの水準であり、東南アジアやグローバルサウスの国への支援も行っています。

 しかし、充実したインフラを持ちながら、それを動かしているのが人であることが問題です。それが今、物流の2024年問題のなかで表面化してきており、デジタル化の遅れが他国よりも目立つようになってきました。

出所:神戸大学「世代物流ネットワーク「フィジカルインターネット」の仕組みと導入例」
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 1つ例を挙げますと、コンテナ輸送における、港のゲートでコンテナの確認作業があります。港でコンテナを受け取った輸入業者は、コンテナから荷物を取り出して、そのコンテナを指定のターミナルに返却します。その際、コンテナにダメージや傷、汚れがないか確認してから返すのですが、日本では、その確認作業は全て人の手で行っています。そのため確認に時間がかかり、トラックが渋滞することもあります。

 一方で、中国の上海にあるスタートアップ企業は、AIを導入してこの作業を自動化する仕組みを開発しました。あらかじめターミナル内の特定の場所にカメラを設置しておき、そこでコンテナを積んだトラックが止まるだけで、自動的にコンテナの損傷をカメラで撮影し、チェックします。チェック結果がバックヤードに送られ、結果がOKならそのままゲートを通過できるという仕組みです。

 この仕組みは2019年に上海の港でトライアルが始まったのですが、当時ではすでに98%以上の精度があるとのことでした。そこから5年で中国全土に利用が拡大し、精度もさらに向上していると思います。

 対して、日本ではゲートでの確認作業は人の手で行い、事務手続きも全て紙ベースです。効率化では大きく後れを取っていると言わざるをえません。