物流と地球社会を持続可能にするために、今何が必要なのか。デジタル先端技術から経営戦略まで、世の誤解・曲解・珍解を物流ジャーナリスト・菊田一郎氏が妄想力で切りさばく連載企画。
第7回からは3回にわたり、物流の持続可能性を左右し、待ったなしの対策を迫られる人手不足の問題について考える。その②となる今回は、物流をディーセントワーク(尊厳とやりがいのある人間らしい仕事)にする鍵となる「サービスプロフィットチェーン(SPC)理論」を紹介する。
働く人の需要圧縮と供給確保
物流サービス需給逆転の<Xデー>が迫る中、「物流で働く人と仕事の需給逆転劇」は、既に舞台の幕が上がっている。「物流2024年問題」もこの流れにさおさす一要因になっているのだが、特に中小物流企業でその傾向が明らかなことは、前回示した調査データの通りだ。
シリーズその②となる今回は、物流という社会インフラの持続可能性/物流に携わる会社・事業の持続可能性を確保するため、「物流で働く人と仕事の需給」の視点で、何をなさねばならないかを考える。人手不足対策の方向性は、こう整理できるのではないかと思う。
<働く人の需要圧縮>
①省力化・自動化などによる生産性向上やモーダルシフトで必要人員の需要を削減
②共同化・統合など企業横断戦略的施策で積載率や作業集約度を高め、業務需要を圧縮
<働く人の供給確保>
③会社・業務の魅力を高めて必要人員を確保
④定着率の向上・離職率の低減
⑤エンゲージメント強化で業務品質・生産性を向上
──論じられることも多い①②は別の機会に譲るとして、今回と次回のコラムでは上記③④⑤に注目し、2つの有力施策について提案したい。
サービスプロフィットチェーン(SPC)理論とは
筆者は年来、「物流をディーセントワーク(尊厳とやりがいのある人間らしい仕事)に!」と主張してきた。何も企業に慈善や仁政を強要しようというのではない。その確立は労使双方にとってのウィン-ウィン(双方受益)施策になり、事業と安定社会の持続可能化に不可欠な条件だと信じるからである。
これを裏打つ理論的根拠として筆者が3年前から重用しているのが、ここで紹介する「サービスプロフィットチェーン(SPC)理論」である。1994年にハーバードビジネススクールのジェームス・ヘスケット名誉教授、アール・サッサー名誉教授、レオナルド・シュレジンジャー氏が発表した論文「サービスプロフィットチェーンの実践方法」で提唱された。もう30年になるのだな。結論だけごく端的に要約すると、
①「従業員満足度の向上」は(サービス品質の向上を通じて)、
②「顧客満足度の向上」につながり、
③「企業収益の向上」へと連鎖する
──という因果関係を示す理論である。