今やわれわれの生活に欠かせない存在と言える「コンビニ」。欧米の小売業界とは異なり、ライフスタイルや社会構造の変化を背景に急成長を遂げてきた日本のコンビニ業界は、他国に類を見ない特徴的なイノベーターと言っても過言ではない。
本連載では『コンビニがわかれば現代社会のビジネスが見えてくる―日本的小売業のイノベーター』(塩見英治著/創成社新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。
業界特有の経営戦略をはじめ、近年進む食品ロス対策の取り組みなど、コンビニ市場を取り巻く最新動向を探る。
第1回は、急速な人口減少局面に入った日本においても、コンビニの堅調さを支える「利便性」が、これまでどのように高められてきたのかについて分析する。
<連載ラインアップ>
■第1回 人口減少、経済停滞が続く日本で、なぜコンビニ業界は健闘し続けられるのか(本稿)
■第2回 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート…各社の戦略に見る特徴と課題とは?
■第3回 セブン-イレブンの店舗では、なぜ必要なタイミングで必要な量の商品が適切に並ぶのか?
■第4回 コスト削減・低価格が目的ではない、セブン-イレブンが掲げる独自のPB戦略とは?
■第5回 ローソン、ファミリーマートがセブン-イレブンを追撃、大手3強時代はいかにして訪れたか?
■第6回 大手コンビニもかなわない、北海道で絶大な支持を誇る「セイコーマート」の人気の秘密とは?
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小売業の展開
今日のコンビニを取り巻く社会環境は、正の方向にも負の方向にも作用する。厳しいのは少子高齢化で、その問題はさまざまな場で議論されている。
日本の人口は、下の図のように、江戸時代の小規模ながらの定常的安定期を経て、明治期以降に大きな伸びを示し、第二次世界大戦前後に急減。その大戦後の高度成長期以降、急速に増加し、2008年の1億2808万人をピークに、その後は人口減少時代に入った。
少子化は高齢化だけでなく、単身世帯の増加、共稼ぎ世帯の増加をも伴っている。近年の急速な人口減少の要因として、未婚化と晩婚化、合計特殊出生率の低下、高学歴化などが指摘されている。このほか、経済的には配偶者や子を養育できない数多くの非正規就労の存在、核家族化の浸透による共同体的支援の後退などの要因が指摘されている。
コンビニはこれまで、中高年層を主たる顧客としていたが、需要の限界の壁を、2000年代に商品開発などで克服してきた。だが、24時間営業だけに、就労面などでの長期的な課題を持っているが、利便性の向上に次の要素が正の方向に作用した。
第一は、立地上の変化である。生産人口が多い時代はモータリゼーションが中心であったが、徒歩や公共交通を含め、多様な移動手段に対応しなければならなくなった。駅前の出店はあるものの、主たる店舗は住宅街やオフィス街の近郊に立地した。
第二は社会経済環境の作用であり、特に、経済活動の変化があげられる。失われた30年とも言われる長期経済の停滞だ。GDPが伸びず消費活動も活発でない中で、小売業の活動にも影響を与えてきた。
比較的、商品価格が高い百貨店が凋落し、安価のスーパー、100円ショップ、ユニクロなどが健闘している。この中にあって、コンビニは値引きが少なく、比較的、商品の値段が高くても、居住地に近い、いつでもあいている便利さ、商品開発などで健闘してきた。携帯などによって情報過多になり、通販もある今日、価格設定も大事になり、新たな戦略が求められるようになっている。
第三に、コンビニを巡る社会環境の変化として、人々の意識の変化があげられる。環境保全やシェアリングエコノミー、ボランティア、モノ消費よりもコト消費、長寿に伴う健康に対する意識も高まっており、商品開発に活かす工夫が求められている。
これらの経済社会環境を前提に、小売業の発展過程を考察してみよう。欧米の小売業の発展過程には、3つの分水嶺があるという。第一は、18世紀の半ばから後半にかけての産業革命を背景にした時期である。都市化とモータリゼーションが進展し、小売業は、百貨店が中心であった。百貨店の展開はフランスにみられ、社会運動の一環として、生活協同組合設立の機運もあった。