このフリーキャッシュフローを増やすための基本は、①事業の儲け(利益)を増やす、②投資を減らす、ということになります。

 一般的にはフリーキャッシュフローはプラスであることが望ましいのですが、将来に向けた投資を拡大している成長段階の企業などは、投資キャッシュフローのマイナスが大きくなり、フリーキャッシュフローがマイナスになることもあり得ます。

 企業も人と同じく、生まれて成長し、成熟し、衰退していくという一連の流れがあるという考えのもと、事業にはライフサイクルがあるという考え方があります。それを前提にした理論として、Dickinson (2011) は、キャッシュフローの変化(プラス・マイナス)に着目し、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの符号に基づいて企業のライフサイクルを5つに分類しました。導入期、成長期、成熟期、変革期、衰退期です。

創業期:事業が稼働したばかりのため営業キャッシュフローはマイナス。しかし、今後の成長のための投資が積極的になされるため、投資キャッシュフローもマイナスとなります。投資実行には資金調達が欠かせないため、財務キャッシュフローはプラスになります。

成長期:事業が順調に稼働し営業キャッシュフローはプラス。成長のため設備投資を資金調達によって実施することから投資キャッシュフローはマイナス、財務キャッシュフローはプラス。

成熟期:事業の安定稼働で営業キャッシュフローはプラス。この成熟期では、投資家への還元などにより財務キャッシュフローはマイナスに転じます。

変革期:成長に陰りが出て、既存のやり方からの変革や競合への対応などで、キャッシュフローは流動的になります。

衰退期:事業の下降局面のため営業キャッシュフローはマイナスに。新たな設備投資の必要性も低いため、投資キャッシュフローはプラスになります。

 このように、キャッシュフローに着目することで、ライフサイクルという観点からみた企業ステージ、そしてその会社の経営判断や変化を読み解くことが可能です。ただし、キャッシュフローは業種による特性の違いが大きく表れやすいため、異なる業界間で見比べる場合には、注意が必要です。

 以上のように、ユニ・チャームは、商品のコモディティ化という点からも、キャッシュフローの特徴からも、「成熟期」の企業であり、すでに成長期を過ぎていると見られても不思議はありません。投資家がそう判断すれば、今後の成長への期待は薄れ、投資家の評価が下がっていくステージに入っているはずです。

 しかし、投資家がユニ・チャームにはまだ成長性が高いと評価しているからこそ、同社のPBRは高水準を維持していると言えます。ユニ・チャームは、商品や企業の「ライフサイクル」に縛られず、その限界を突破して高収益と成長を持続できると見られているということです。では、その理由はどこにあるのでしょうか。

<連載ラインアップ>
■第1回 ユニ・チャームは「成熟期」を迎えながら、なぜ高PBRを維持できるのか?(本稿)
■第2回 不織布・吸収体に経営資源を集中、ユニ・チャームの高収益を支える「本業多角化、専業国際化」とは?(10月25日公開)
■第3回 新興市場がユニ・チャームの成長を牽引、海外展開を成功に導く「勝ちパターン」とは?(11月1日公開)
■第4回 年間入園者数が3000万人を突破、東京ディズニーリゾートはなぜ驚異的なリピート率を維持できるのか?(11月7日公開)
■第5回 「待ち時間を減らす」東京ディズニーリゾートの“客単価”を引き上げたオリエンタルランドの方針転換とは?(11月14日公開)

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