大和総研 フロンティア研究開発センター データドリブンサイエンス部長の坂本博勝氏(撮影:堀江宏旭)

 大和証券グループのシンクタンク、大和総研では研究開発拠点「フロンティア研究開発センター」を2016年に設置し、データサイエンティストによるAIの研究開発に取り組んでいる。特に注力しているのは、研究員やエコノミストなどの高度専門職が担ってきた複雑な業務を生成AIで自動化するプロジェクトだ。その取り組みの成果と、2023年6月に「大和総研 AI倫理指針」を公表した狙いについて、フロンティア研究開発センター データドリブンサイエンス部長の坂本博勝氏に話を聞いた。

活用事例の「レシピ」を集めることから着手

――生成AIを積極活用していく方針を打ち出したきっかけは何だったのでしょうか。

坂本 博勝/大和総研 フロンティア研究開発センター データドリブンサイエンス部長1974年、愛知県生まれ。大手SI企業で10年、外資系データ分析企業で8年、ネット銀行で1年、データ分析コンサルティングやシステム開発の経歴を積み、2017年に入社。2023年より現職。グループ内外の企業向けにAI開発プロジェクトをリードしつつ、データサイエンティストの組織およびメンバーマネージメントを推進。

坂本博勝氏(以下敬略) 2022年11月にChatGPTが一般公開された直後から、当社のデータドリブンサイエンス部のメンバーは、応用研究として生成AIの使い道を模索していました。

 社内で最初に注目するきっかけとなったのは、初期検証を行ったメンバーのレポートです。そこには「生成AIには本質的にビジネスを変える力があるかもしれない」という趣旨の内容がまとめられていました。

 2023年に入ると、クライアントや大和証券グループの各社からも生成AIに関する問い合わせや相談が相次ぐようになりました。そこで、同年3月に生成AIを研究する緊急チームを立ち上げ、本格的な活用方法の検討に乗り出したのです。

――本質的にビジネスを変える力とは、具体的にはどういうことですか。

坂本 これまでの機械学習やディープラーニングに代表されるAIの技術では、自動化による業務の代替はできるものの、その内容は専門知識の不要な汎用的作業などに限定されていました。ところが生成AIには、専門性や難易度の高い業務も代替できる可能性があることが分かってきたのです。

 当社のエコノミストが行っている経済調査を例に挙げると、試しに生成AIに10年分のニュースや株価の動向などのデータを読み込ませたところ、「この年はこういう理由で株価が上がった」といった簡易調査レポートが生成できました。

 精度は100%ではありませんが、50%でも代替できれば、エコノミストや研究員などの専門職のルーティーン業務を軽減し、より付加価値の高い仕事に時間を振り向けることができるのではないか、との期待が高まっています。

 このような研究成果や仮説は、生成AIが知識レベルや専門性レベルの高い複雑な業務を自動化し、代替するポテンシャルを秘めていることを示唆します。従来には実現できなかった価値を、ビジネスにもたらす可能性を高く評価しました。

――生成AIの活用プロジェクトはどのように進めていったのですか。

坂本 まずはチームメンバーに生成AIを使ってもらい、活用事例の「レシピ」を集めることに注力しました。レシピの一例を挙げると「メールの自動筆記」「経済データの前回と今回の差分抽出」「資産運用アドバイス文章の自動筆記」などです。

 そういった仮想のビジネスケースに当てはめながら活用事例のレシピ集を作り、大和証券グループの各社に生成AIでできることを紹介しました。そして、「実際のビジネスケースで試してみたい」と手を挙げた部署に、生成AIを活用したプロジェクトを展開していきました。