──DMAPがあれば、支社が異なっていても属性や課題が類似したお客さまへの対応のノウハウが共有できて、現場がより自立できそうです。
江口 現場の自立に向けては、Web3.0を実現する仕組みの1つとして話題になったDAO型の組織構造を検討しています。

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DAO型組織では、営業員同士を直接ネットワークでつなげて情報交換を容易にし、現場に根差した多様性ある意思決定や、データ分析用の学習データを効果的に蓄積することを目指します。
具体的には社内SNSを立ち上げ、営業員同士のノウハウを共有できるスペースを設けました。今はこのSNSの活用を進めているところです。今後、ノウハウを学習データとして蓄積して、データ分析やデジタルバディを通じた活用を目指したいと思っています。
今までの会社組織は、基本的に社長、部長、課長、現場といった階層型になっていました。この階層は、人が認識・管理できる能力の限界を補うために生み出されたと考えられます。しかしChatGPTのように誰もが使えるAIが普及すれば、能力の限界の概念は変わるはずです。そうなれば、「DAOのような個々が自立した多様性ある組織、即時性を持った組織を目指せるのではないか」という仮説を当社では持っています。
当社のDAO型組織では、提供されたノウハウを誰が提案しどのように役立ったかをトレースする機能を持たせようとしています。これによってノウハウ提供を個々人の評価に繋げられるため、インセンティブ効果が働き、皆の参加意識が増して、3万人以上の営業員が有するノウハウを効率的に活用できるようになると期待しています。
すべてのデジタル施策は「人」のためのもの
──オンライン保険のような、人が介在しない保険商品も存在しますが、第一生命のデジタル施策はすべて人を生かすためのものですね。
江口 ここ10年ほど、ヨーロッパやアメリカでもデジタルを活用した生命保険の開発や販売が進められてきましたが、最近は、オンライン完結型の商品を一定以上普及させるのは難しいという見方が強まっています。
契約に至るには、多くの場合、デジタル以外の人の関与やナッジと言われる最後のひと押しが必要だというのが結論です。人々が保険に期待するものは、きわめて多様です。顕在化していないニーズもたくさんあります。あらゆるお客さまにしっかり訴求するには、人が人に寄り添う形が大切なのです。
営業員という「人」がお客さまという「人」に相対しないと、満足いく結果にはつながらない。ですから私たちのデジタル施策も「人対人」に役立つものに集中しているのです。
──多くのデジタル施策は現時点では挑戦中とのことですが、課題はあるのでしょうか。
江口 人のための施策ですので、課題はいかに人がうまく使い倒してくれるかです。そのためにはもちろん使ってもらえるツールに仕上げなくてはいけません。また、DMAPの活用にはデータの収集以外に、データ分析ができる人財の育成・採用も重要です。
DAO型組織については、営業員の参加意欲を高める必要があります。営業員に関心を持ってもらうには「あそこには有用なノウハウがたくさんある」と思ってもらえるよう情報密度を上げていかなければなりません。
──御社のDAO型組織への挑戦は先進的ですが、保険業界ではそうしたこれまでの常識を覆すような進化が必要になるのでしょうか。
江口 遠からず、個人向けのAIバトラー(執事)が出てくると想像しています。「夏に旅行に行きたいから良いホテルを探しておいて」とバトラーに言うと探して予約してくれる。「ビールが無くなった」と言うとECでポチッとしてくれる。
そうなれば、保険の加入についてバトラーに相談するようになるということも考えられます。バトラーが、個々の考え方やライフスタイルに合った最適な保険を選択して、主人に代わって契約する。そんな時代が来るかもしれません。
もしそうなれば今の生命保険はコモディティ化し、利幅が狭くなる可能性が多分にあります。保険会社はこれまでのように安心・安全を提供するだけでは立ち行かないでしょう。もっと広い視野でお客さまのためになること、ウェルビーイングや喜び、楽しみにつながるようなインセンティブを提供することを、私たちはイメージする必要があります。
そのためには、営業員がどれだけ頑張れるかが重要です。保険に限らず、その他のサービスや営業員の人間力で、第一生命と付き合うと得をする、楽しめる、とお客さまに思っていただかなければならないと思います。
