第一生命ホールディングス(以下、第一生命)は2023年4月1日より、イギリス人のスティーブン・バーナム氏を、専務執行役員CIO(Chief Information Officer)兼CDO(Chief Digital Officer)として招聘した。同氏はこれまで野村證券やメットライフ生命保険、プルデンシャルなどで技術部門の責任者を歴任した「フィンテック畑」のスペシャリストだ。バーナム氏に、第一生命に入社した理由や同社でのミッション、日本の生命保険会社がDXを成功させるキーポイントなどを聞いた。
ライフスタイルの変化、規制緩和、フィンテックの台頭など、金融機関の経営環境は激変の一途。今やDXによる変革は待ったなしです。金融業界におけるDXキーパーソンへのインタビューにより、DX戦略の全体像から、データ活用、CX、カルチャー変革、デジタル人材育成まで、金融DXの最新の事例を取り上げます。
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1980年代後半に来日した理由は「冒険したかった」から
――バーナムさんは、これまで長く金融業界を渡り歩いてこられました。第一生命に入社した理由と、果たしていくミッションについて教えてください。
スティーブン・バーナム氏(以下敬称略) 私は前職のプルデンシャルグループでGlobal Head of Technologyという役職についていました。当時は、全く転職を考えていなかったのですが、所用で第一生命を訪れたことが入社のきっかけになりました。広島に原爆が投下された際、同社が10日以内に保険金の支払い業務を開始した、という事実を知ったのです。
私はこの事実を知って、非常に感銘を受けました。お客さまが本当に困難な状況に置かれていて、今すぐにでも支援を必要としている中、真っ先に動く、その姿勢に対してです。私も、こうした強い目的意識を持つ会社でこれまでの経験を活かしたい、と素直に思ったのです。
私が第一生命のCIO兼CDOとして果たすミッションは「デジタル技術を活用して、お客さまにより良いサービスを提供する」ことと、「競争力のある職場環境を整備する」ことにあります。
金融業界でCIOとCDOを兼務するケースは珍しいと思います。兼務する理由は、お客さまと職場、2つの領域でテクノロジー/デジタルの活用水準を高めるところにあります。
私たちのDXの最終的な目的は、お客さまにより良いサービス体験を届けることにあります。そのためには、まず社員一人ひとりが、業務のなかで最新技術に触れ、その価値を認識する必要があると思っています。
これまで私は、大手生命保険会社をはじめ、さまざまな金融機関で、クラウド戦略の策定など社内のDXをリードしてきた経験があります。その経験から、最終的にお客さまにテクノロジーを活用した良いサービスを提供するためには、社内理解が不可欠だ、と身をもって知っているのです。第一生命でも目下のミッションは、テクノロジーの社内への浸透になるでしょう。
――バーナムさんは、モルガン・スタンレー証券東京や野村證券など日本、アジアの金融機関で長く勤務された経験をお持ちです。そもそも、なぜイギリス人であるバーナムさんは「日本で働こう」と思ったのでしょうか。
バーナム 私は、大学卒業後、ロンドン証券取引所でソフトウェアエンジニアとして勤務していました。勤務する中で、9時から17時まで働くライフスタイルに飽きていた自分を発見したのです。そこで、「言葉も文化も、全く異なる国に冒険してみたい」と思い、単身、来日することを決めたのです。
来日してしばらくは、英語教師として働いていました。当時、池袋の狭いアパートに住んでいたことを今でも思い出しますね。その後、モルガン・スタンレー証券東京で職を得て、約10年勤務しました。
そこからが、私と日本、アジア市場との関わりの始まりです。野村證券ではインド支店でCIOとして勤務し、スタンダードチャータード銀行中国ではCEOを務めるなど、これまで長くアジア市場を担当してきました。