僕は第一生命という保険会社で建築の仕事をしている。
仕事ではインハウスアーキテクトという役割を担っている。
生命保険会社は資産運用の一つのアセットとして不動産に投資しており、インハウスアーキテクトは不動産の所有者として、長期的視野で資産価値を安定的に高めるためのプランニングを担う。
今回は、僕が最近の仕事を通じて感じ、考えていることについて書きたいと思う。
曲者の福利厚生用グラウンドをどうする?
今までのインハウスアーキテクトの仕事は、(収益を生む)建築そのものを作ることであった。しかし、東日本大震災や新型コロナウイルスのまん延、気候変動問題をはじめとするSDGsの経営課題化等々、われわれを取り巻く社会や環境、価値観の変化により、近年、求められる仕事はどんどん新しい領域へと大きくシフトしてきていると感じる。
それは、収益価値はもとより、建築を通じてより能動的に社会課題を解決していくこと(サステナビリティ・持続可能な社会の実現)や、建築を通じて人々に幸せな体験価値を提供すること(ウェルビーイング・心身ともに健康な状態へ)への拡張だ。
また、建築の領域を超えてアクティビティやコミュニティづくり、さらには新規事業創造にまで“越境”している。そのため、業界を超えた幅広い共創も生まれてきている。
ここで、僕が今、最も力を入れているプロジェクトを紹介したい。
東京都世田谷区の北西、京王線の仙川駅と千歳烏山駅のほぼ真ん中の場所に、約9haの当社の福利厚生用グラウンドがある。その歴史は古く、今から68年前の1954年に取得したものだ。これを有効活用するプロジェクトに5年前から取り組んでいる。
しかし、これがなかなかの曲者だった。既存施設ごとに異なる複雑な社内の管理体制はもとより、第一種低層住居専用地域のため、投資効率の高い商業用途や大型施設は建築できず、事業性は低い。挙げ句に、行政による計画道路が敷地内に多く入り込み、境界は当然のように未確定。通常、こんな厄介な土地は、社内で使わないなら即売却だ。
それでも、長きにわたり、この地を保有し続けてきた意味を問い直し、当社ならではのやり方で不動産を最大限に生かし切るため、大胆に“越境”したプランを描いた。
それは、開発エリアを限定して一定の収益性を確保しつつ、地域・社会課題解決に加え、第一生命ブランドをアピールするような新しいまちづくりを目指そうというもの。そして、これが経営陣に受け入れられた。