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 各社がこぞって「ジョブ型」雇用制度導入へと舵を切るなか、「ジョブ型は日本企業には向いていない」と喝破する専門家がいる。その同志社大学・太田肇教授が、ジョブ型の問題点を指摘しつつ、具体的な事例やデータにもとづき、生産性向上や人材不足対策の切り札になる新たな働き方のモデルを提示。本連載では『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(太田肇著/プレジデント社)から内容の一部を抜粋する。

 第4回は、静岡県の建設会社・平成建設が採用している「一気通貫型」の仕事の仕方や、専門領域やプロセスごとの分業をやめて、営業担当一人ですべてを担当するようになった製薬メーカーや住宅リフォーム施工の現場の事例を紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 「侍ジャパン」はメンバーシップ型でもジョブ型でもなく、何型だったか?
第2回 “ジャパンアズナンバーワン”再来? 「自営型」が日本になじみやすい理由
第3回 ウェブ調査で判明、中小企業経営者の「自営型」導入への期待とその役割とは?
■第4回 建設業や営業職で実証、なぜ「一気通貫制」で生産性が上がるのか?(本稿)
第5回 キヤノン、オリンパスの生産性を上げた「一人生産」方式は、どう進化したか?
第6回 欧米企業幹部の働き方は、なぜ「ジョブ型」でなく「自営型」に近いといえるか

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■一気通貫の「非効率」をITで解消

「自営型」導入の可能性が高い職種として「営業・マーケティング」があげられる。

 そこで、ある大手製薬会社における営業のケースを取りあげよう。

 この会社の場合、以前は糖尿病、癌というような領域別に担当が決められていたが、一人ですべてを担当するゼネラル制に切り替えられた。その結果、かつては一つの医療機関を三、四人が担当していたのが、現在はエリアごとに一人で担当するようになった。

 ゼネラル制に切り替えられた理由として、領域別だとエリアごとの課題や医療圏の課題が見えてこないことがあげられている。さらにITの普及も背景にある。営業の担当者はIBMが開発したAI、「ワトソン」を活用しており、医療関係の新たな論文が発表されるとすぐに読むことができる。

 担当エリアの売り上げや他社の情報も、以前は薬品卸やマーケティング担当に聞いていたが、いまはワトソンがメールで教えてくれる。ITの普及により、個人で質の高い仕事ができるようになった典型的な例である。

 建築や不動産の業界にも「一気通貫制」を取り入れる企業が登場してきた。

 住宅のリフォームなどを手がけるH社もその一つだ。

 一般にリフォーム会社では、営業、設計、施工などプロセスごとの分業体制が敷かれており、それぞれ営業担当者、プランナー、現場監督者が担当する。そして受注した工事は下請けの工務店に「丸投げ」するのが普通である。

 それに対してH社では、一人の営業担当者が大工、塗装、左官、内装の仕事まで管理する「担当者一貫責任管理システム」を取り入れている。

 分業制は各自が専門の仕事に集中できるので効率的な半面、客の要望が現場へ正確に伝わらなかったり、工程がスムーズに進まなかったりする弊害がある。「担当者一貫責任管理システム」を採用することで、このような弊害を減らすことができるという。