イマジンネット画廊/共同通信イメージズ

 各社がこぞって「ジョブ型」雇用制度導入へと舵を切るなか、「ジョブ型は日本企業には向いていない」と喝破する専門家がいる。その同志社大学・太田肇教授が、ジョブ型の問題点を指摘しつつ、具体的な事例やデータにもとづき、生産性向上や人材不足対策の切り札になる新たな働き方のモデルを提示。本連載では『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(太田肇著/プレジデント社)から内容の一部を抜粋する。

 第3回は、中小企業の経営者に「自社の正社員に取り入れる可能性が高い働き方」を聞いた著者のウェブ調査の結果から、「自営型」への期待度を読み解く。

<連載ラインアップ>
第1回 「侍ジャパン」はメンバーシップ型でもジョブ型でもなく、何型だったか?(本稿)
第2回 “ジャパンアズナンバーワン”再来? 「自営型」が日本になじみやすい理由
■第3回 ウェブ調査で判明、中小企業経営者の「自営型」導入への期待とその役割とは?(本稿)
第4回 建設業や営業職で実証、なぜ「一気通貫制」で生産性が上がるのか?
第5回 キヤノン、オリンパスの生産性を上げた「一人生産」方式は、どう進化したか?
第6回 欧米企業幹部の働き方は、なぜ「ジョブ型」でなく「自営型」に近いといえるか

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「職人」への回帰

■萌芽はネット化以前に

 日本社会ではコロナ禍を経て、雇用から自営へという大きな潮流が生まれ、自営業、フリーランスとして働く人が台頭してきた。

 しかし、それは現在進行しつつある「自営化」の一側面に過ぎない。「自営化」には、統計数値に表れないもう一つの側面がある。

 企業の社員、すなわち雇用労働者でありながら、半ば自営業のように一人でまとまった仕事をこなす働き方が広がっているのだ。本稿では、それを「自営型社員」と呼ぶことにしよう。

 私はいまから四半世紀前、組織に属しながらも自分の仕事にコミット(没頭)し、仕事を軸にキャリアを築いている人を訪ねて、北は北海道から南は奄美大島まで足を運んだ。そして半ば自営業のように働く人を「半独立型」の仕事人(しごとじん)と呼び、拙著『仕事人(しごとじん)の時代』のなかで紹介した。

 会社と委任契約で働く、証券会社の外務員や保険会社の外交員。稼いだ額の三分の一が年俸に反映される制度が適用される経営コンサルタント。 

 事業が成功し、利益をあげたら利益に応じた報酬を受け取る社内ベンチャー。そしてプロジェクトごとに会社と契約し、貢献度に応じて利益が配分される会社の社員などである。このような働き方は、いまとなってはさほど目新しくないかもしれないが、インターネットもまだ十分に普及していない当時は、そこに新たな時代の息吹を感じたものだ。

 あれから四半世紀の時を経た現在、ITの加速度的な進化とグローバル化によって、組織に属しながらも半ば自営業のように働く人は急速に増えている。本章では、そのなかでも企業に雇用され、社員として普通に働く人に焦点を当て、そこに「自営型」の働き方が広がっている実態を見ていきたい。

 まず紹介したいのは、私が2022年に実施したウェブ調査の結果である。

 なお調査では、「ジョブ型」「自営型」をそれぞれ、つぎのように定義した。

「ジョブ型」=個人の職務内容を明確に定義し、本人が望むかぎり特定の職務を長期にわたって継続させる働き方。

「自営型」=特定の製品の開発や組み立て、プロジェクト遂行など、まとまった仕事を一人で受け持つ、半ば自営業のような働き方。

 そのうえで企業等の人事担当者に対し、「貴社の正社員(正職員)に取り入れることができる働き方は、つぎのどちらに近いですか?」と質問した。すると回答は、「ジョブ型」が66・7%を占めたが、「自営型」は7・7%に過ぎなかった(図4-1)。

 これは予想どおりの結果である。「メンバーシップ型からジョブ型へ」の変革が声高に叫ばれているなかで、いきなり「自営型」という働き方を示されても、選択する人事担当者が少ないのは当然だろう。しかし自営型がどのような働き方か具体的にイメージできれば、この数値は大きく跳ね上がる可能性がある。

 「自営型」と回答した人事担当者に、「『自営型』が取り入れられる可能性が高い職種はつぎのうちどれですか?」と質問した。すると比較的回答が多かったのは、「人事・総務」(47・5%)、「研究開発」(45・0%)、「営業・マーケティング」(42・5%)などの職種だった(複数回答)。