各社がこぞって「ジョブ型」雇用制度導入へと舵を切るなか、「ジョブ型は日本企業には向いていない」と喝破する専門家がいる。その同志社大学・太田肇教授が、ジョブ型の問題点を指摘しつつ、具体的な事例やデータにもとづき、生産性向上や人材不足対策の切り札になる新たな働き方のモデルを提示。本連載では『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(太田肇著/プレジデント社)から内容の一部を抜粋する。
第6回は、「ジョブ型」と考えられている仕事のなかに「自営型」に近いものが多くあること、さらに「自営型社員」のマネジメントや育成方法について解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 「侍ジャパン」はメンバーシップ型でもジョブ型でもなく、何型だったか?
■第2回 “ジャパンアズナンバーワン”再来? 「自営型」が日本になじみやすい理由
■第3回 ウェブ調査で判明、中小企業経営者の「自営型」導入への期待とその役割とは?
■第4回 建設業や営業職で実証、なぜ「一気通貫制」で生産性が上がるのか?
■第5回 キヤノン、オリンパスの生産性を上げた「一人生産」方式は、どう進化したか?
■第6回 欧米企業幹部の働き方は、なぜ「ジョブ型」でなく「自営型」に近いといえるか(本稿)
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■水面下で広がる「自営型」
近年しばしば取りあげられるようになった「ジョブクラフティング」、すなわち作業者個人の視点から仕事を設計し直す取り組みのなかにも、自営型に含められるようなケースがある。
たとえば人材育成などを研究する石山恒貴は、東京ディズニーランド、JR東日本の関連会社テッセイ、および羽田空港それぞれにおいて、清掃の仕事を新たに意味づけし、創造的な仕事に再設計した事例を紹介している。
いずれの事例も、一人ひとりが主体的にまとまった仕事をこなすようになったところが注目される。
いっぽうでは「ジョブ型」と称しながら、開発、営業、経理などを一人で担当したり、特定のプロジェクトや商品を一人で受け持ったりするなど、「自営型」と呼んでも差し支えないような働き方をしている例もある。
「ジョブ型」の要件の一つが職務を明確に定義する点にあることを考えるなら、これらはいずれも「ジョブ型」より「自営型」に近いといえるのではなかろうか。したがって少し外郭を広めにとれば、「自営型社員」は相当な割合を占めているという推測も成り立つ。
そうだとしたら、自社の正社員(正職員)に取り入れられる働き方として「自営型」をあげる人事担当者が少なかったのも、実は自営型のイメージを具体的に描けなかったためではないかと考えられる。
なお、その点に関連して少し付け加えておきたいことがある。世間では日本企業=メンバーシップ型、欧米企業=ジョブ型という単純な二項対立図式でとらえがちだ。
たしかに欧米企業の非管理職は、ジョブ型で雇用されるのが普通だと理解してよい。しかし管理職、とりわけ幹部クラスになると、たとえば「5年以内に〇〇の開発プロジェクトを完遂させる」「アジア地域での売上げを30%アップさせる」というような目標を上から提示され、それを個人が受け入れて契約するケースが多い。
そこで個人に求められているのはミッション(使命)の遂行である。個人の裁量と責任でミッションを遂行するという働き方は、ジョブ型というより自営型に近いといえよう。
したがってメンバーシップ型かジョブ型かという二類型で強引に分けるならジョブ型に含まれるかもしれないが、自営型を加えた三類型では自営型が現状でもかなりの比率を占めていることを示唆している。
要するに「自営型」という名称がなかったため、実像がつかめなかったのである。