画像提供:神戸物産

 業務スーパー1号店の開業から20年余りで、時価総額1兆円企業へと成長した神戸物産。牛乳パックに水ようかん、豆腐パックに冷凍チーズケーキ・・・一風変わった商品、独特な店舗は一体どんな発想から生まれたのか? 本連載は、創業者・沼田昭二氏が業務スーパーの型破りな経営の仕組みを語り尽くした『業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由』(沼田昭二、神田啓晴著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第4回は、商品を大幅値下げしてももうかるユニークかつ合理的な仕組みと、業務スーパーの「経営の3大原則」を解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?(本稿)

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■値上げの相談に値下げ要求

 ポテサラの次は、食パンに行きましょうか。業務スーパーの主力商品は自社(グループ)で作っている、という前提をもう一度頭に置いて読んでください。

 業務スーパーの人気商品に「天然酵母食パン」という商品があります。09年に神戸物産にグループ入りした麦パン工房(岐阜県瑞穂市)が製造しています。

 普通、スーパーで売っている食パンというと5枚切り、6枚切りにスライスされたものが主流ですが、天然酵母食パンはふっくらした食感が売りですから「手で割いて食べること」をオススメしており、1本をそのままパッケージしています。大きさは1.8斤とかなりのものですが、値段は284円(23年10月時点)とリーズナブルです。10年前はさらに安くて1本が198円でした。

麦パン工房の天然酵母食パン。手でちぎってみるともっちりした手応え
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 グループ入りする前からお話ししましょう。神戸物産に、麦パン工房の工場長さんからせっぱ詰まった様子でコンタクトがありました。同社は地元の小売店向けの菓子パンなどを製造していて、以前から神戸物産とも少量ですが取引がありました。

 当社では麦パン工房のつくった一斤の食パンを売っていたのですが、値段が安いだけのパン、という印象で実際お店でもあまり売れていませんでした。

 麦パン工房さんは地元では比較的大きな規模だったのですが、「利益率の低い商品を多品種少量生産している」メーカーで、破綻寸前に追い込まれているようでした。

 工場長さんに会うと、予想通り「神戸物産にスポンサーになってほしい。そして、うちが開発した新商品のパンを売ってほしい」と言うのです。まずは、味を見ないと話が始まりません。そこで実物を試食しました。味は文句の付けようがないおいしさでした。問題は価格です。

 値段を聞くと「298円で売っているが、それだと赤字なので398円にしたい」と工場長さんは言いました。そこで私は逆に「分かりました、198円にしましょう」と提案しました。

 どういう答えなんだ! と感じる方もいるでしょう。工場長さんも最初は「無理です」と困惑した様子でしたが、「神戸物産がスポンサーとなるには、これを受け入れてもらうしかありませんよ」と伝えると最終的には理解をしていただけました。

 強引だと思われるかもしれません。私は途中をすっ飛ばして結論を言ってしまうよくない癖があるのです。この値下げ提案にも私なりの明確な根拠が2つありました。おそらく、この時の工場長さんはこう思っていたはずです。「パンの値段が安いから赤字になったのだ」と。

 私の見立ては逆でした。「パンを値下げすればたちまち黒字化できる」。そう考えていました。