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 業務スーパー1号店の開業から20年余りで、時価総額1兆円企業へと成長した神戸物産。牛乳パックに水ようかん、豆腐パックに冷凍チーズケーキ・・・一風変わった商品、独特な店舗は一体どんな発想から生まれたのか? 本連載は、創業者・沼田昭二氏が業務スーパーの型破りな経営の仕組みを語り尽くした『業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由』(沼田昭二、神田啓晴著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第2回は、弱点の多い商材を、「利益を生み続ける商品」に変える2つの手法をひも解く。

<連載ラインアップ>
第1回 業務スーパーは、なぜ牛乳パックでようかんを売るのか?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?(本稿)
第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?
第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?

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■乳業メーカーが作る水ようかん

「牛乳パックに水ようかんを入れる」ことに、その具体例があります。

 これを作っているのは愛知県豊田市の豊田乳業。13年に買収した乳業メーカーです。なぜ乳業メーカーが、牛乳パックに牛乳ではなくデザートを入れているのか。この本のタイトルの種明かしをしていきましょう。

 08年初頭に中国製ギョーザによる中毒事件(07年12月末から08年1月にかけて、千葉県と兵庫県で中国製の冷凍ギョーザを食べた10人が中毒症状を起こした事件。ギョーザには殺虫剤が混入されていた)が起きました。神戸物産ではこの中毒事件を起こした工場からギョーザを仕入れてはいませんでしたが、中国産食品へのハレーションはすさまじく、一時的に客足が遠のきました。対策として神戸物産では製造拠点の国内回帰を目指しました。

 工場を自前で建てるとコストも時間もかかります。そこで、国内の中堅・中小の食品メーカーを相次いで買収しました。多くは民事再生の適用申請をしたり、私的整理に追い込まれたりして、経営破綻に追い込まれた企業です。長きにわたって賞与や残業代を支払うことが難しくなっているなど、会社も社員も苦しい状況に置かれています。

 そういった企業には共通する課題があります。まず、価格以外に競争点を見いだすのが難しい商品を作っていた。豊田乳業の主力商品の牛乳がまさにそうです。立場は違えど、業務スーパーを創業する前の私と、同じ悩みを抱えていたわけです。

 買収後、工場を視察に行くと、従業員は休みも十分に取れないまま長い時間働き続けていました。理由を聞くと、「牛乳は賞味期限が短いので、毎日製造していないと欠品を起こしてしまう」と言います。

■牛乳は「面倒」な商品

 牛乳は弱点の多い商材です。

 賞味期限が短いので売れ残りが即、ロスになり、1度に大量生産できません。在庫を抱えられないとなると、毎日一定量を製造することが求められます。平日に工場をフル稼働させて、土日は休む、といったメリハリのある働き方を導入するのが難しい。

 加えて、牛乳は薄利多売の商品です。例えば、当時1リットルの牛乳パック1本の店頭価格は約170円、これを作る原料の生乳の価格は130円ほどでした。そこに輸送費などを加えると、もうけはそれこそスズメの涙です。そして申し上げた通り、牛乳は味の違いで勝つのは至難で、競合他社も多く、結局は価格以外に競争する要素がない。

 牛乳は素晴らしい食品です。でも、作り手の立場で考えれば、メリットの少ない商品であることは明白でした。