業務スーパー1号店の開業から20年余りで、時価総額1兆円企業へと成長した神戸物産。牛乳パックに水ようかん、豆腐パックに冷凍チーズケーキ・・・一風変わった商品、独特な店舗は一体どんな発想から生まれたのか? 本連載は、創業者・沼田昭二氏が業務スーパーの型破りな経営の仕組みを語り尽くした『業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由』(沼田昭二、神田啓晴著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第3回は、価格以外で勝負でき、他社が模倣できない独自商品を作る発想と商品づくりの生産効率を劇的に高める仕組みに迫る。
<連載ラインアップ>
■第1回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?(本稿)
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
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■賞味期限の長さが問題解決のカギ
賞味期限を長くするには菌の増殖しづらい商品であること。これが欠かせません。
詳しくは後ほどお話ししますが、私は食品メーカーを経営した経験もあります。だから、何をどう組み合わせれば日持ちするようになるのか、理論上の答えはすぐに浮かびます。この時は、「ゲル化剤などに代表される増粘多糖類を使い、凝固させた製品」という解が出ました。
何やら難しい用語を並べてしまいましたが、言い換えるとスイーツです。そして、最初の商品として生まれたのが、水ようかんでした。なぜ水ようかんなのかというと、それは私の好みです(笑)。
具体的にどういった工程で製造しているのかは企業秘密ですが、特に難しかったのは、こうした素材をうまく凝固させるための原材料の配合や充填の工程ですね。
容器がペットボトルのように円形ならば、回転させることで熱伝導を均一にできます。でも、牛乳パックは四角いので円形の容器と同じような凝固の工程を踏めません。
例えば、底の方が先に固まり、上側が遅れて凝固すると、味のばらつきが生まれます。こうした課題をクリアできないと製品化できません。牛乳パックにデザートを入れるのは、単なるアイデアの勝利と映るかもしれませんけれど、実は技術的にかなり難しいことなのです。
こうして生まれたのが、1リットルの牛乳パックに入った水ようかんです。賞味期限は3カ月。製品化して約10年たちますが、いまだに他社から模倣されていません。当初は乳業メーカーの方々もこの商品にかなり興味を抱いていたと聞いています。
なぜ類似品が世に出てこないのか。最大の特徴である賞味期限の長さは、製造技術も機械も自社で考案することで実現できたものだからです。「充填して冷やして固める」という工程を単純にまねしただけでは3カ月は持ちません。
牛乳パックに水ようかんを入れる理由は、容器のコストが安いこと以外にもあります。
まず、陳列の効率がいい。横幅と奥行きが短いので店頭で並べやすいのです。四角くて配送時の効率もいい。箱詰めしやすいですし、多少の振動ではびくともしません。