現場のデータを生かして「多層化したサプライチェーン」を変革
――蓄積したデータはどのように活用されるのでしょうか。
坂田 このようなデータは、ただ集めるだけでは何の価値も生みません。今東南アジアのDXは、集めたデータを選別、分析し、そして編集して新しい価値を生み出すキュレーションというステージにきています。インドネシアには「パパママショップ」と呼ばれる個人経営の小型店舗が約350万店舗あります。そのパパママショップの仕入れの問題をDXで解決しようとしている事例をご紹介します。

一般的にパパママショップでは、商品が不足すると他の小売店や卸業者から商品を購入します。しかし、そういった仕入れ先の在庫データが共有されているわけではないので、仕入れに足を運んでも在庫がなければ全くの無駄足になってしまいます。そんな非効率なオペレーションが日々展開されていました。
この問題が複雑化する背景には、多層化されたサプライチェーンの存在があります。インドネシアでは中間業者が多く存在しているため、多数の業者が介在する中で中間マージンを取られて最終的な小売売価が高くなる傾向にあります。同時に、品質管理も難しくなります。しかし、小売店も中間業者も長年そのスタイルで商売をしているため、なかなか仕組みは変わりません。
こうした状況を変えるために、データ収集に乗り出した企業がいくつかあります。例えばシンバッドというスタートアップは、パパママショップ向けのEコマースを展開しています。シンバッドはメーカーから直接仕入れたものをパパママショップに販売しており、これまで分散していた各パパママショップの在庫データや発注データを一元管理することで、多層化したサプライチェーンの打破を目指しています。
――多層化していた中間業者を飛び越えて仕入れができるようになったのですね。
坂田 はい。このように、データを集めて選別、分析を行ったうえでシステムを構築、改善することは、社会の構造を変え、変革を実現する力になります。サプライチェーンが多層化している点は、日本と似ています。
日本にもPOSシステムをはじめとするデータ活用のための仕組みこそありますが、多層化したサプライチェーンを打破するところにまでは至っておらず、現場の改善に留まっています。だからこそ、データを集めることから始まったインドネシアの事例を知っていただきたいですね。