デジタルの力で「半径5キロ圏内の問題解決」を

――東南アジアでのイノベーションは、実際にどのように起こったのでしょうか。

坂田 東南アジアにおけるDXは大きく分けて3つの段階を経てきました。まず銀行主導での消費者データの収集、次にユニコーン主導でのビッグデータの構築、そして分散データのキュレーションです。わかりやすく解説するために、インドネシアの消費者向けサービスを例に挙げます。

 市場を制すには、消費者情報をより多く手に入れる必要があります。そのため、インターネット普及率も銀行口座保有率も低かった2010年代初頭のインドネシアでは、大手銀行による消費者への地道な営業活動が展開されていました。

 やがてスマホ革命が起き、大多数の人がインターネットを利用するようになると、それを活用して消費者を取り巻く課題を解決することに成功したプレイヤーが覇権を握ることになります。

 例えば、インドネシアを代表するユニコーン企業であるGojekは、まずジャカルタの社会課題の一つである渋滞を回避するために、バイクタクシーの配車サービスを提供するアプリを立ち上げました。その後、消費者の生活に寄り添ったサービスを続々追加し、アプリ一つで様々なサービスを利用できる「スーパーアプリ」へと進化しました。

Gojekアプリの画面

このアプリを使えばタクシーやバイクタクシーも呼ぶこともでき、消耗品を買ってきてもらうこともできます。また、体調が悪いときには、オンラインで診察を受けて薬を持ってきてもらうこともできるのです。

 Gojekは、消費者向けのサービス以外に、加盟店やドライバーへ向けたサービスも展開しています。例えばドライバーに無償で運転技術に関するトレーニングや英会話、オートバイのメンテナンス方法などを教えるサービス、といった形です。

 加えて、ドライバーの自立を支援するための起業家精神の養成、資金計画の策定などに関するプログラムなども提供しています。このような仕組みをつくることで、Gojekでサービスを提供する側のドライバーや加盟店の抱える課題も解決することに繋げています。そして、スーパーアプリには、ユーザ、ドライバー、加盟店に関しての多種多様かつ膨大なデータが蓄積され続けます。