不確実さを増す時代、保険会社の役割はさらに重要度を増している。三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険などを傘下に有する、国内3大損保グループの一角であるMS&ADインシュアランス グループは、補償の前後で顧客に価値を提供するソリューション開発に力を入れている。その背景と具体的成果を、同社執行役員CDOの本山智之氏に聞いた。
ライフスタイルの変化、規制緩和、フィンテックの台頭など、金融機関の経営環境は激変の一途。今やDXによる変革は待ったなしです。金融業界におけるDXキーパーソンへのインタビューにより、DX戦略の全体像から、データ活用、CX、カルチャー変革、デジタル人材育成まで、金融DXの最新の事例を取り上げます。
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なぜ、補償前後のソリューションが大事なのか
――MS&ADグループでは、保険会社として、本来の役目である経済的な補償に加えて、その前後に関わる価値の提供に力を入れています。それはなぜでしょうか。
本山智之氏(以下敬称略) これは、近年の社会環境の変化が背景にあります。
保険というビジネスは、多くの人からお金をお預かりし、それを事故に遭われたり、病気になられたりした一部の人にお支払いする仕組みです。
社会を取り巻く状況をみると、COVID19やウクライナ戦争といった世界的な危機に加え、サイバーテロや気候変動に伴う自然災害なども増加し、社会のリスクは着実に高まっています。こうした時代に、これまでと同じ仕組みのままでは、保険料率がどんどん上昇してしまいます。そこで保険会社として、どうすれば事故や災害のリスクを減らすことができるか、を考えることが重要になってきました。
また、テクノロジーの進展という社会変化は、私たちがお客さまのためにできること、ビジネスの可能性を広げてくれました。さまざまなデータをAIで分析することで、災害や事故の発生率が高い精度で予測できるようになりましたし、事故が起きた際に、迅速な復旧を可能とする技術も登場しています。
もちろん事故や災害を100%防ぐことはできませんが、もしものときに、お客さまの困りごとを少しでも軽減し、回復を手助けすることができれば、お客さまに喜んでいただくことができるのではないかと思っています。
例えば、保険をご契約いただいているお客さまが洪水の被害に見舞われた場合、お客さまは安全な場所に避難されたり、水が引いて家に戻れたら家屋を片付けて生活を再建したりと、大変な思いをされます。そんな中で私たちができることは、お客さまのお申し出を受け、損害状況を調査し、保険金を支払うということだけでした。
ここを見直し、洪水が発生する前に注意を促すなど、対策をご案内することでリスクを減らす、または被害を受けても、1日でも早く日常を取り戻していただけるようお客さまの回復を支援することでもお役に立ちたいと考えています。それは、私たちのビジネスである「保険」の枠を、補償の前後にまで広げるということです。「保険会社」から「リスクソリューションのプラットフォーマー」になろうというビジョンを掲げています。
その結果、最終的には保険料率を抑えたサービスを継続することが可能になります。これが、当社グループが、補償という保険本来の機能に加え、補償前後のソリューション開発に取り組み始めた理由です。生命保険の分野では、予防、再発防止のヘルスケアサービスを提供していますが、それも同じ考え方に基づいています。
ただ、事故のリスクを軽減するサービスは、当社グループのお客さまだけに提供していても効果が限られます。社会全体のリスクを減らすことが重要です。そこで有償サービスとして、当社グループの保険のお客さま以外にも提供しようと取り組んでいます。