SOMPOホールディングスは、2016年にグループCDO執行役員として楢崎浩一氏(現・デジタル事業オーナー 執行役専務)を招き、保険業界の中でもいち早くデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んできたことで知られる。2020年にはさらにもう1人、外部から専門人材が加わった。米アップルや米AT&Tなどを経験し、複数のスタートアップでCEOやアドバイザーも務めるアルバート・チュー氏である。シリコンバレーと東京を行き来する同氏に、同社のデジタル戦略が目指すゴールと、日本企業の可能性などについて聞いた。

SOMPOグループに参加したのはイノベーションの“新しい波”を見るため

――2020年にSOMPO Digital Lab CEOに、2021年4月にSOMPOホールディングス グループCDOに就任されましたが、アルバート・チューさんの現在のミッション、役割について伺います。

アルバート・チュー/SOMPOホールディングス グループCDO 執行役員

米アップルや米AT&Tなどに勤務し、複数のスタートアップでCEOやアドバイザーも務める。2020年にSOMPO Digital LabシリコンバレーのCEOに就任し、2021年4月からSOMPOホールディングスのグループCDOも兼務(現職)。
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座右の銘:「The journey is the reward(旅そのものが報酬だ)」(米アップルのCEOスティーブ・ジョブズが語った言葉)
お薦めの書籍:『ゼロ・トゥ・ワン』(ピーター・ティール著)、『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン著)

アルバート・チュー氏(以下敬称略) グループCDOとしての私のミッションは主に3つあります。1つ目は、外からイノベーションをもたらし、全てのビジネスユニットのDXを加速させること。2つ目は、デジタルの新しい機会を開拓し、保険以外のビジネスを拡大させること。3つ目は、5~10年後の世界を見通し、イノベーションのシフトが起こった時に対応できるように準備をしておくことです。

 そのためには、日本の外で何が起きているのかを捉えて、それを反映したり、予測したりすることが大切で、SOMPO Digital Labはシリコンバレー以外にも、テルアビブ、東京に拠点を置き、連携しながら活動しています。

SOMPO Digital Labの3極体制(同社の統合レポート2020より抜粋)
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――チューさん自身は、シリコンバレーと東京を行き来しているのですか。

チュー 月に一度、東京に来て1~2週間滞在しています。DXはテクノロジーで企業に変革をもたらすことですが、それだけではなくて、人材のトランスフォーメーションも重要であり、コミュニケーションが欠かせません。毎回、さまざまなビジネスユニットの人たちとコミュニケーションを図り、信頼関係を深めるとともに、変革の進捗を見ることができるのは、大変うれしく思っています。

――SOMPOホールディングスには、デジタル事業オーナーである楢崎浩一氏がいて、デジタルを所管する役員が複数名いる体制となっていますが、どういった役割分担なのでしょうか。

チュー 私の役割は、それぞれの事業会社における業務プロセスの変革などをサポートするもので、SOMPOグループ全体の収益に対する貢献は間接的なものと言えます。

 一方の楢崎さんは、新しいデジタルビジネスをいちから立ち上げ、SOMPOグループ全体の収益に対して直接的な役割を担っています。

 楢崎さんはグループ子会社のSompo Light VortexのCEOも兼任し、医療やヘルスケア以外の領域でデジタルソリューションの開発に取り組んでいるほか、米国のソフトウェア企業Palantir(パランティア)との合弁会社であるPalantir Technologies JapanのCEOも務め、幅広い分野のDX支援も行っています。

――米国のテック企業から日本の保険グループに転じた理由は何ですか。SOMPOホールディングスでの仕事にどのような魅力があったのでしょうか。

チュー 私はこれまでのキャリアを通じて、イノベーションの“新しい波”をいくつも見てきました。

 1982年、アップルに入社した当時は、誰もパーソナル・コンピューター(PC)を持っていませんでした。当時のビジョンは「全ての人々の手にコンピューティングパワーを」というものでした。それが実現し、今ではPCだけでなく、スマホやアップルウオッチなど、さまざまなデバイスを皆さんが手にしています。

 1996年にAT&Tに入社しましたが、当時はインターネットが台頭し始めた頃で、私はそこにチャンスがあると考えました。つまり、インターネットが通信業界を変革すると感じたわけです。かつて長距離電話は1分間当たり10セント程度の料金がかかりましたが、今では無料です。ZOOMなどテレビ電話でさえただです。

 その後、スマホのOSを開発するPalmSourceに入社しました。モバイル・アプリケーションやソーシャルメディアといったモバイルの領域で、イノベーションの“新しい波”が起きていると感じたからです。

 SOMPOホールディングスに入社したのも同じような理由です。次のイノベーションの波が何かははっきりと言えませんが、データやジェネレーティブAI、ウェブ3.0(スリー)といった破壊的なテクノロジーが相次いで登場し、金融、保険業界だけでなく、あらゆる業界を大きく変えようとしている、そういったインスピレーションを感じたからです。これが1つ目の理由です。

 2つ目の理由は、SOMPOホールディングスにはイノベーションをリードしていく準備ができていると感じたことです。私自身、Palantirを日本市場に持ち込む際に、エグゼクティブである楢崎さんや櫻田さん(櫻田謙悟・グループCEO 取締役 代表執行役会長)、奥村さん(奥村幹夫・グループCOO 代表執行役社長)をはじめ、いろいろな方とお話ししたり、知り合う機会がありましたが、SOMPOホールディングスにはイノベーションに必要な適切なリーダーシップと適切なビジョン、そして適切なマインドセットがあると感じました。

 3つ目の理由は、SOMPOホールディングスがイノベーションによって、日本だけでなく、世界にいろいろなチャンスがあるということをしっかりと認識していることです。私自身はシリコンバレーを中心に活動していますが、日本の外で起きていることを見聞きして、それを日本に持ち込むことで、SOMPOホールディングスに貢献できればいいと考えています。