スーパーアプリが患者と診療所の双方にメリットを創出

――インドネシアでは、消費者向けサービス以外の分野でもスーパーアプリは登場しているのでしょうか。

坂田 医療についても、診療所向けのソリューションを提供するスタートアップ企業があります。インドネシアには1万8000カ所の診療所があると言われていますが、その多くが独立経営です。そのため、サービスの品質に大きなばらつきが生じています。

ジャカルタの診療所

 その原因の1つとなっていたのが、診療データや経理データが診療所ごとに管理されていたことでした。そこで、こうしたデータを一元的に把握すべく、あるスタートアップ企業が開発したのが、診療所のオペレーション改善に特化したクラウド型のシステム「ドクターツール」です。これにより、患者の予約から診療、医療費の支払いまでを一元化できるようになりました。

 ドクターツールを使うメリットは他にもあります。各診療所は「BPJS」という全国民を対象とした公的医療保険制度に保険金を請求するのですが、以前はデータが手作業で作成されていたため信頼性が低く、審査に時間がかかってなかなか保険金が支払われないという問題がありました。

 しかし、ドクターツールの登場後には、電子化した診療記録や支払い記録が統一された形式で1つのデータベースに残るため、「信頼性の高いデータ」としてBPJSに認識されるようになりました。

 結果として審査がスムーズに進むようになり、保険金も滞りなく支払われるようになっています。診療所での診察の様子こそ変わりませんが、このように診療所内部の仕組みに関しては劇的に変化しています。

――DXによって、診療所の経営者は患者へのサービスに集中できるようになったわけですね。

坂田 はい。こうした事例からヒントを得ることで、日本のビジネスや医療の現場の方々がよりスムーズに仕事を進められるようになるはずです。そして、社会全体に目を向けて不便さや不自由さを解消することで、大きなイノベーションを起こすチャンスを生み出せると考えています。

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■【前編】ビジネスと生活に変革、インドネシアのスーパーアプリは社会をどう変えたのか(今回)
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