自動運転が世界経済にもたらす効果は、7兆ドルという分析結果がある。交通事故を大きく減らし、年間で60万人の命を救うと報告されている自動運転。その実現は、自動車メーカーにとって重要な開発テーマであると同時に、関連する部品メーカーにとっても、大きなビジネスチャンスをもたらす。一方で、自動運転の実用化と量産車の開発においては、まだ大きな課題が横たわる。その課題の解決策に最有力と目されているのがANSYSの自動運転用シミュレーションツールチェーンだ。

2020年の実用化を見据えて加速する自動運転技術の開発競争

 安全な自動運転技術の登場は、世界的な規模で自動車業界を一変する可能性がある。専門家や業界関係者によれば、世界初の自動運転車は2020年に発売されると予測されている。近い将来、UberやLyftのようなサービスが、自家用車に代わって完全に自動運転化されたタクシーで提供される時代が訪れるかも知れない。

 一方で、安全な自動運転を実現するためには、解決しなければならない課題も多い。例えば、濃い霧や雪によって「視界(カメラ / レーダー / ライダーシステム)」を遮られた自動運転車が、ハイウェイの車線や他の車両や歩行者を確実に感知する方法は、まだ確立されていない。自動運転車が公道を安全に走行するためには、徹底的にテストして検証する必要がある。高度なセンサー類を複雑に組み合わせた自動運転システムを搭載した実車両を用いて、各種の環境条件下での走行試験を実施し、限られたスケジュールで安全性と収益性を追求しなければならない。とはいうものの、実際の道路を走行する際に所望する試験の条件が全て満たされるとは限らず、また一度実施した試験を同じ条件で再現することは非常に困難だ。これらの課題を解決するのがコンピュータ上の仮想空間で試験走行を実現できるシミュレーション技術である。

自動運転に不可欠な技術

BMWグループが自動運転用シミュレーションツールチェーンの開発でANSYSを選んだ理由

 2019年6月10日にANSYSとBMWグループが、業界初となる自動運転用シミュレーションツールチェーンの開発で連携すると発表した。BMWグループは、ANSYSの広範囲なエンジニアリング(工学)シミュレーションを活用してきた経験から、自動運転システムの安全性に重点を置いて検証するソリューションの開発を加速する。BMWグルーブがANSYSを選択した背景について、アンシス・ジャパン株式会社 マーケティング部の柴田克久部長は、次のように話す。

「ANSYSは、工学シミュレーションの世界的リーディングカンパニーです。その強みは、物理的な理論に基づくシミュレーション技術にあります。例えば、自動運転に不可欠なセンサーの選定をする場合、センサー自体の特性もさることながら、センシングの対象となる実際の道路の状況も高い精度でシミュレートできなければ、車両の制御の性能にセンサーの能力がどれだけ影響を与えるのかを正確に予測することはできません」

 気象予測から操縦訓練に教育や娯楽に至るまで、コンピュータを活用したシミュレーションは、数多くの産業や研究分野で活用されている。環境に左右される実際の物理現象を再現することは容易ではない。例えば、舗装された道路と未舗装の砂利道では、カメラやレーダーが捉える情報にズレがある。白線や標識なども、経年劣化や色あせなどにより、カスレや褪色などが生じる。その物理的なズレや違いをシミュレーションの段階で、どれだけ高精度に試験できるかどうかが、自動運転に採用されるセンサーの評価、選定では重要となる。

物理的な特性に基づきバーチャルに環境を再現

 ANSYSは、数学モデルに加えて物理的な理論を高度に組み合わせることで、他の追随を許さない高精度なシミュレーションを実現している。その信頼性の高さについて柴田氏は「例えば、カメラによる画像認識では、光学的な物理モデルを踏まえていないと、レンズの歪みや波長の変化なども正確にシミュレートできません。真夏の昼の炎天下と冬の夕暮れ時では影のコントラストや光の色合いも大きく異なります。このような環境下で白線を同じように認識できるかどうか、という模擬シナリオを再現するためには、物理的な特性に基づいたシミュレーションが不可欠になります」と話す。

 道路の状況によってカメラとレーダー、あるいはライダーを使い分けることや、それらの情報を融合(センサーフュージョン)する必要があるが、自動運転において、車両の自己位置推定の認識精度をあげる場合には、センサー単体を提供する部品メーカー側で、そのような利用状況下での性能保証が困難という話も聞く。その一方で、完成車メーカー側でセンサーフュージョンの評価を行う場合には、実験シナリオに地図情報だけでなく、それぞれのセンサーに必要な測定対象の物理特性も、きちんとデータとして併せ持っている必要がある。

「当社のシミュレーションプラットフォームは、基本機能を共通化したゲームエンジンを利用したドライビングシミュレータとは本質的に異なります。現実とほぼ同じ環境をバーチャル空間に再現することで、実験シナリオをより高い精度で検証できるのです」と柴田氏は説明する。

実環境を忠実に再現した仮想環境で自動運転走行シナリオを検証

実環境を忠実に再現した仮想環境が自動運転システムの開発に不可欠

 BMWグループでは、2021年にBMW iNEXTという高度な自動運転の実現を目指している。そのためには、実環境を忠実に再現した仮想環境による自動運転システムの厳しい安全性評価が必須となる。ANSYSの提供するシミュレーションツールチェーンは、高度なデータアナリティクスを介して大量のセンサーデータの有効活用を可能とし、統計的有意性と自動運転システムの感度に基づいてシナリオを作り出す。柴田氏は「ANSYSの工学シミュレーションは、運転環境を正確に再現するだけではなく、一社で自動運転に必要なセンサーから車両の挙動や制御に至る分野までをカバーできるシミュレーション環境を提供できる点にも強みがあります」と補足する。

 自動運転の実現には、大きなビジネスチャンスがある一方で、人命に関わる重要な安全性が求められる。企業としてのコスト効率を追求するだけではなく、高度な安全性と信頼性を確立しなければならない。物理現象を忠実に再現できるANSYSの工学シミュレーションは、自動運転車の開発におけるコストパフォーマンスを左右する重要な検証環境となる。自動運転車の開発に関わる企業が、ANSYS のシミュレーションソフトウェアを導入すれば、数年かかる実機試験の代わりに、数千もの動作シナリオをリスクフリーの仮想環境で再現できるようになる。例えば、自動運転車の性能のあらゆる側面を再現できるシミュレーションを利用することで、あらゆる気候シナリオの条件下でセンサーが実際に「見える」ものを確認し、数カ月から数年かかる実機試験を短縮し、安全で競争力のある自動運転を開発できる。

数千もの動作シナリオを仮想環境で再現

 自動運転車の開発にANSYSの工学シミュレーションを採用するメーカーは、ソフトウェア、電子機器、センサーなどの重要なコンポーネントをリスクフリーの仮想環境で開発およびテストすることで、車両の自動化に向けたグローバルな取り組みのリーダーとしての地位を確立している。2020年の実用化を見据えた開発競争が加速する中で、精度の高いシミュレーションツールを活用するメーカーが、世界の自動車市場で新たな覇者となる日も近いだろう。 

■アンシス・ジャパンの自動運転に関する取り組み・活用例の詳細はこちら

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